北海道.サロベツ原野に広がる手つかずの森.この森に夜になると姿を現す生き物がいます.ひょっこり顔を出したのはエゾモモンガです.
エゾモモンガのねぐら | クリップ | NHK for School
ワイルドライフ NHKBSプレミアム 3月13日(月)午後8:00
北海道 サロベツ原野 エゾモモンガ 凍(い)てつく森を生きる
エゾモモンガの得意技は,滑空.木から木へと自由自在.飛距離は最大で100メートル以上です.あらゆる物が凍てつく冬.エゾモモンガは一致団結.仲間同士で身を寄せ合い厳しい寒さをしのぎます.
更に初めて撮影された寒さを跳ね返す驚きの行動.
北海道の北部.サロベツ原野です.南北27キロ,東西8キロ.広大な原野には湿原や森など,多様な自然が広がっています.
NATS 自然大好きクラブ|自然ふれあい施設|サロベツ湿原センター
サロベツ原野はかつて大きな湖でした.しかし4000年前から水が引き,徐々に湿原が作られてきました.
https://get.google.com/albumarchive/100176824727291326363?source=pwa
利尻島を望む海岸から原野が続いています.海から数百メートルほどの所.海岸線に沿うように続く森があります.長さ25キロ,幅2キロ.砂丘の上に3000年以上の歳月をかけてはぐくまれた森です.砂丘林と呼ばれています.
森で多く見られるのは,ミズナラや白樺などの広葉樹.そしてトドマツなどの針葉樹です.そのほとんどが高さ10メートルを超えています.
http://sarobetu.info/kesiki/08/kesiki1030.htm 北海道森林管理局/森の動物たち(2013年) サロベツ発 <富士元寿彦>の画像|エキサイトブログ (blog)
砂丘林のあちこちには,アカゲラが使わなくなった巣穴があります.
夜,この古い巣穴から,小さな動物が顔を出しました.エゾモモンガです.穴の直径は3センチ.頭の大きさとピッタリです.北海道だけに住むリスの仲間.群れを作らず単独で生活します.
キツツキの使わなくなった巣穴で,昼間はじっと寝て過ごし,カラスや猛禽類など天敵が寝静まる夜に活動を始めます.大きく愛らしい目.暗闇の中で活動するため,光を多く取り入れられるように発達しました.
体の大きさは15センチ.体重はわずか100グラムほど.手のひらに収まるほどの大きさです.地面に下りず木の上で一生を過ごします.
あっ.飛びました.
空中を滑るように移動します.木から木へと滑空すれば,近くの木に移りたいときも,一度地面に下りる必要がなく,エネルギーの節約になるのです.
滑空は時に100メートル以上.どうやって飛ぶのでしょうか.
後ろ足で力強く蹴り出します.次の瞬間,大きく前足を上に突き上げました.前足と後ろ足を一杯に開くと.その間にある「飛膜」と呼ばれる膜が広がります.
エゾモモンガのねぐら | クリップ | NHK for School
その皮膜を広げるのに欠かせないのがこの骨の構造です.
http://www.shibecha-h.ed.jp/shibecha_pdf/H24_rika_01.pdf
長さ3センチほどの針のような骨.
針のような骨があるのは,皮膜の前.凧の骨組みのように膜に「張り」をもたせて浮力を生み出すのです.
滑空をするときに,障害になるのが森に生える木々です.そんな時には皮膜を傾けてカーブ.障害物をかわすことも自由自在です.尻尾は凧揚げの凧の尻尾と同じく,姿勢を保つのに役立つと考えられています.
更に着地の瞬間,上体を起こしてブレーキをかけ,衝撃を和らげています.
滑空した先にあるのは食べ物.エゾモモンガが食べるのは木の葉や芽など,全て木の上の物です.一年中森にあるため冬眠をしなくても済みます.
しかし,ここは最も北部にあるサロベツ原野.
小さなエゾモモンガは過酷な冬をどう乗り切るのでしょうか?
秋
一月ほどの間に30種類を超える渡り鳥が集まります.鳥たちは沼に生える水草の根や茎を食べています.こうして渡りのための栄養を蓄えます.雪が降り始めるころ,再び,東北や北陸などの越冬地を目指します.
http://www.geocities.jp/takeofukuda/2003wakkanai.html [ アーカイブ ] - 北の自然と野生
ミヤマカケスはドングリを集め,木のくぼみなどに蓄え,冬に備えます.
エゾリスも大好物のオニグルミをたくさん食べて冬に備えます.
冬
エゾモモンガが暮らす砂丘林です.広葉樹はすっかり葉を落とし,地面には厚く雪が積もっています.
夜,エゾモモンガが暮らす砂丘林に猛烈な北風が吹き付けます.
巣穴から顔を出しました.さすがのエゾモモンガも寒そうです.それでも凍てつく森に出かけていきます.おや?巣穴からもう一匹出てきました.更にもう一匹.秋まで単独で暮らしていたエゾモモンガ.なぜ複数でいるのでしょうか?この巣穴からはなんと四匹も出てきました.
日中別の巣穴を覗いてみると,秋の間に集めたコケや地衣類が入り口近くまでうずたかく積もっていました.一匹が顔を出しました.二匹以上一緒にいるようです.
実はエゾモモンガは冬になると身を寄せ合い,暖め合う習性があるのです.
最近同居しているエゾモモンガの意外な関係が分かってきています.帯広畜産大学の研究チームです.帯広市近郊の森で30年以上にわたりエゾモモンガの生態を調査してきました.100匹を捕獲し,識別マークをつけて同居しているエゾモモンガを調べました.その中には繁殖期でもないのに,オスとメスが一緒にいるケースがありました.
血縁関係がなくても同居していたのです.エゾモモンガは冬になると一つの穴に集まる習性があります.元からいたエゾモモンガは,血縁関係のないものも自分の巣穴へを受け入れ,集団で生活をします.
来るものを拒まず,互いに温め合う.エゾモモンガはこうして生き残ってきたのです.
ひときわ冷え込んだ朝.この日の最低気温は氷点下20度.
エゾモモンガの巣で異変が起こりました.完全に明るくなった朝の9時.ひょっこり顔を出したのです.しかも外に出てきたのです.ずっと夜に行動していたはずなのに,一体どうしたのでしょう.幹を駆け上り森の中に消えていきました.次々と出てくるエゾモモンガ.
実は,気温が下がりすぎると,夜は巣穴から出ず,寒さの緩んだ日中に食べ物を探すのです.
エゾモモンガたちがやって来たのは,トドマツのすぐ右側にある,シラカバの木.
巣穴からは30メートルほどの距離です.寒さで体力を奪われないよう.できるだけ巣穴に近い木を選びます.そして短時間でなるべく多くの花芽を食べ,効率よく栄養を取り入れます.
巣穴の中で体を温め合っていたエゾモモンガたちは,食事も仲良く同じ木でしています.実は食事中も一緒に過ごすことが,エゾモモンガが生き残っていくための大切な戦略だといいます.
カラスがやって来ました.時にはエゾモモンガを襲うことがある天敵です.一匹が気づき逃げ出しました.それを合図に仲間も逃げ出します.
エゾモモンガたちは隣のトドマツの枝の中に逃げ込みました.冬でも葉が茂るトドマツの中なら,簡単には見つかりません.
多くの目で周囲を警戒していれば,天敵にいち早く気づくことができます.エゾモモンガのチームワークが力を発揮していました.
今回撮影をすすめる中で,不思議な物を見つけました.森の中でエゾモモンガの巣を捜していた時のこと.木の幹にあいた20センチほどの穴.エゾモモンガが巣穴にするには大きすぎます.しかし,その下を見てみると,雪の上には花芽の食べかすが散らばっていました.
テントに身を潜め,待つことにしました.
何かが素早く穴の中に入りました.エゾモモンガです.花芽を食べ始めます.しばらくすると立ち去りました.
穴の中を見てみると,大好物のシラカバやハンノキなどの花芽がたくさんため込んでありました.
エゾモモンガの「貯食」は専門家も初めて見るという映像でした.
春
砂丘林の中にも差し込む暖かな日差し.春を告げる花も咲き始めました.
エゾモモンガ.無事冬を乗り切ったのです.日中堂々動き回っています.
でも今は春.寒さも緩み,昼間でなくても食べ物を捜せるはずです.一体どうしたのでしょうか?
二匹が連れ立ってとんできました.オスとメスです.春はエゾモモンガの恋の季節.メスがオスの求愛を受け入れるのはわずか一日だけ!
そのチャンスを逃すまいとオスはもう必死です.この日だけは夜も昼も見境がなくなってしまうのです.