ミーアキャット(2)アフリカ南部カラハリ砂漠に暮らすミーアキャット.群れを守るため,敵とも果敢に戦うヘルパーたち.ところが,その娘がある日突然群れから追い出されます.独りぼっちで天敵におびえながらも,必死に生き抜く娘.しかし,何故母親はわが子を追い出したのでしょうか?「ミーアキャット母と娘の愛と葛藤に迫る」(2) NHKBSプレミアム ワイルドライフ

アフリカ南部カラハリ砂漠に暮らすミーアキャット. その群れの仕組みはちょっと変わっています. 群れにはたくさん大人のメスがいますが,子供を産むのは一匹だけ.みんなの母親です.娘たちは大きくなっても母親の子育てを手伝い,ヘルパーと呼ばれています.群れを守るため,敵とも果敢に戦うヘルパーたち. ところが,その娘がある日突然群れから追い出されます.「ミーアキャット母と娘の愛と葛藤に迫る」(1) NHKワイルドライフ - yachikusakusaki's blog

エッグの視線の先.イブです.群れのみんなもイブを見つめています.ヘルパーたちは常に母親を援護するように行動します.イブに向かって一斉に走り出しました!

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NHKネットクラブ (ワイルドライフ「南アフリカカラハリ砂漠 ミーアキャット母と娘の愛と葛藤に迫る」)

NHKBSプレミアム  ワイルドライフ南アフリカカラハリ砂漠 ミーアキャット母と娘の愛と葛藤に迫る」(2)

NHKBSプレミアム 「ワイルドライフ」 2017年2月13日(月)午後8時〜

(なお,ミーアキャットについては,NHKダーウィンが来た」第107回(107回「熱血!ミーアキャット先生」│ダーウィンが来た生きもの新伝説)でも取りあげられました.またネット上にもさまざまな情報があります(例えば,かわいいだけでは語れない!知られざるミーアキャットの生態 | Amp ミーアキャット|いきもの図鑑|ZOO CAN DREAM PROJECT).上記のNHKネットクラブのものに加え,これらのウェブサイト他の写真を一部使わせて頂きましたので,画像は番組内容と異なっていますのでご了承下さい

 

逃げ出すイブ.威嚇を表すウォーダンスです.

数百メートルを走り続けたイブ.

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エッグたちは追ってきません.

何とか振り切ったようです.穴の近くでやっと一息.

ところが,向こうの茂み.エッグたちです.匂いを嗅ぎつけられていたのです.再びイブが襲われます.

 

母親一匹だけが出産するミーアキャットの社会.それは妊娠しそうな娘を排除することで維持されていたのです.

夕方群れから遠く離れたところにイブがいました.常に周囲をうかがい落ち着かない様子です.日が落ちると一気に暮れていく砂漠.イブは独りきりでねぐらの穴に入っていきました.

この日から放浪の暮らしが始まったのです.

 

イブが群れを追い出されてから1週間が経ちました.

朝独きりでねぐらの穴から出てきたイブ.逢い引きをしていたオスには振られてしまったようです.

イブの顔.アゴの下に小さな茶色いものがあります.ダニが三匹ついたまま.仲間との毛繕いができていないのです.

日光浴もそこそこに食べ物を探し始めました.

しかし,地面を掘ることに集中できていません.いつ天敵に襲われないかと心配なのです.そんなイブの体.追い出される前よりやせて見えます.メスが群れを追い出されると,体重が2割ほど減ることが研究からわかってきました.食べ物がちゃんと捜せないからです.

問題は他にもあります.穴の近くを選んで移動するイブ.イブは仲間に天敵を見張ってもらうことができません.そのため隠れることのできる穴から遠く離れることは危険なのです.限られた場所でしか食べ物探しができないイブ.これでは痩せてしまうのも当然です.

やっと落ち着けたようです.

 

しかしそこには別のミーアキャットがいました.母親のエッグたちです.匂いを感づかれたようです.一斉に迫ってくるエッグたち.懸命に逃げるイブ.何とか逃げ切ったイブ.

群れを追われると,食べ物に困り,安全な居場所さえも失ってしまうのです.

 

調査地には群れを追われたメスが他にもいます.その行方を追跡します.

使うのは数キロ先から受信できる巨大なアンテナ.群れの縄張りから遠く離れた場所にいました.このメスは半年前に群れを追い出された後,ずっと一人で暮らしています.同じように追い出されたあるメスの行動の軌跡です.群れの縄張りを大きく飛び出して,放浪しています.こうしたメスの多くはその後一生縄張りを持つことなく,放浪して暮らすといいます.

 

しかし例外もあります.

ちらも半年ほど前に群れを追い出された別のメス.おや,子どもたちが一緒です.放浪している間にオスと出会い,縄張りを確保して,自分の家族をつくったのです.めったにない幸運な例だといいます.しかし,問題が立ちはだかっていました.生後三ヶ月の子どもたち.4匹いますが,みんななかなか大きくならないのです.夫婦には子育てを手伝ってくれるヘルパーはいません.そのため子供の食料が足りないのです.大きな道路に出ました.渡る前に安全確認.子どもたちを見守るのも夫婦2匹だけで行わなくてなりません.

しかし,このメスは困難に直面しながらも,自分の家族を持つことができたのです.ミーアキャットの社会では,こうして娘たちが新しく縄張りをつくることで,分布を広げていきます.追い出しにはそんな娘の独立を促すという意味もあるのです.

 

12月上旬.強い日差しが照りつけ,かげろうが立つ大地.ますます乾燥が進んでいます.虫たちは地中不覚に隠れてしまいました.なかなか見つけられません.ミーアキャットたちにとって,過酷な季節です.

 

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イブが群れを追い出されて2週間が経ちました.イブは群れの縄張りの外れで過ごしていました.何か捕まえています.ヤスデです.むさぼるように食べています.実はミーアキャットは普段ヤスデを食べることはありません.ヤスデのからには独特の匂いと味があり余り美味しくないからです.しかし緊急事態の今,イブは新たに食べ物を開拓していたのです.

 

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そんなミーアキャットの行動について,最近面白い発見がありました

“Innovative problem solving in wild meerkats.  (問題を革新的に解決するミーアキャット)Animal Behavior ”

与えられた課題に対して親よりもヘルパーの方が,柔軟に対処するというのです.

驚きの新発見をもたらした実験を再現してもらいます.

(スライド式に回る窓がフタに付いた透明な箱)その中にサソリを入れる⇒好物のサソリを手に入れるためには上のフタを回さなければなりません.

早速母親がやって来ました.初めて目にする実験装置.サソリをとっろうとしますが,ダメです.直ぐ諦めてしまいました.

今度はヘルパーの若い娘.サソリがずいぶん気になっている様子.捕まえようといろいろな方向から前足を伸ばそうとしています.上に乗ったときです.フタが少し開きました.でも気づいていません.それでもしつこく調べています.

ついにフタを開けました: 偶然フタの上に登った若い娘.隙間に気づきました.その隙間から前足を入れてフタをずらし,サソリを出しました.

ヘルパーの娘はこれまで見たこともない課題を強い探究心でクリアしたのです.

さまざまな課題で実験.その結果母親より若いヘルパーの方が,問題をずっとたくさん解決しました.

ゲイナー博士「ヘルパーは柔軟なのです.追放され新しい場所で自分の群をつくるとき,その柔軟さが重要です」

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まだ二歳と若いイブ.食べ物を柔軟に変えることで,厳しい放浪生活を生き抜いていたのです.

 

そんなある日のこと,見知らぬ1匹がイブの後をつけてきました.

若いオスです.イブのお尻のにおいをかいでいます.繁殖の相手を求めて近づいてきたのです.しかし,イブには今受け入れる気はないようです.普通なら強く拒絶して追い払いますが,イブはオスの自由にさせています.オスがそばにいればもし天敵が近づいても気づいてくれます.そのためイブは久しぶりに食べ物探しに集中できるのです.でもそれだけではありません.やがてこのオスと一緒に,自分の家族を持つこともできるかもしれないのです.

 

一方こちらは母親のエッグたち.

エッグが興奮しています.よそ者の匂いがするのです.ヘルパーたちにも興奮が伝わります.よそ者を捜すヘルパーたち.やって来ました.たくさんいます.隣の群れです.ここは縄張りの境界なのです.エッグたちは戦闘態勢に入ります.この動き.威嚇するときのウォーダンスです.一斉にジャンプして群れの大きさを見せつけます.エッグの群れに子供は8匹います.相手もウォーダンスで迫ってきました.隣の群れは大人が9匹.相手の方が一匹だけ多いのです.

するとエッグたち,猛スピードで逃げ出しました.数が多い隣の群れにはかないませんでした.負けが込むと縄張りを奪われることもあります.僅か一匹の差で負けたエッグたち.イブがいないのはエッグにとっても大きな痛手なのです.

 

12月中旬,

カラハリの空が厚い雲で覆われていきます.不安定になった大気.雷鳴が聞こえます.ついに雨が降り始めました.長かった乾期が終わりようやく雨期に入ったのです.雨水をたっぷり吸った地面.それを合図に地中にいた虫たちが地上に出てきます.ミーアキャットたちは食べ物を簡単に見つけられるようになりました.

イブの母親エッグです.そのお腹.皮膚がたるんでいます.出産したのです.赤ちゃんをねぐらの穴に残して,食べ物を探しています.

イブです.あれっ.群れの仲間と一緒です.追い出されてから3週間.戻ってきたのです.

オスとは別れたようです.自分で群れをつくることはできませんでした.エッグに挨拶するイブ.エッグは挨拶を返します.エッグは自らが出産をおえた今,イブを許したのです.

 

今回,独立して自分の子供を産むことはできなかったイブ.しかし母親になるチャンスもまた巡ってくるはずです.

 

雨期に入ったカラハリ砂漠.つかの間の緑に彩られます.

こちらはエッグたちとは別のねぐらの穴.あっ.穴の奥に赤ちゃんです.出てきました.

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赤ちゃんは生まれて3週間ほどはずっと同じねぐらで過ごしています.初めてみる地上の世界.ちょっと戸惑っているようです.

お乳を飲み始めました.実は授乳しているのはヘルパー.一度も出産したことがないのに,お乳が出せるのです.ミーアキャットは授乳までヘルパーが交代で行います.

ねぐらのまわりで元気に遊ぶ赤ちゃんたち.くぼみの近くは危ないですよ.あっ.落ちてしまいました.すぐ助けに集まるヘルパーたち.でも出られません.頭をくわえて引っ張りだしました.赤ちゃんが小さいうちはヘルパーも目が離せません.

次の日のこと.一番元気な赤ちゃんが穴をどんどん離れていきます.でも,歩き回るにはまだ早すぎます.砂漠には赤ちゃんを狙う天敵がたくさんいます.

気づいたヘルパーが直ぐ迎えにきました.穴へ誘導するヘルパー.他のヘルパーたちも集まって,赤ちゃんをしっかり守ります.急いで穴へ戻る赤ちゃんたち.あっ落ちちゃいました.大丈夫です今度は自分で登ります.心配なヘルパー.今度はくわえて運びはじめました.無事みんなの元へ戻りました.

たくさんのヘルパーが子育てを手伝うミーアキャット.赤ちゃん一人一人に目を行き届かせることができるのです.

 

一方こちらは夫婦と子供四匹だけのできたばかりの群れ.この前観察したときから一ヶ月が経ちました.子どもたちは無事でしょうか.

元気です.四匹とも大きくなっていました.体重も順調に増えています.食べ物も自分で捜せるようになりました.子どもたちは成長し,やがてヘルパーとして母親を支えます.そうすれば母親は次の子供を安心して育てることができます.群れはより大きくしっかりしたものになっていくに違いありません.

アフリカ南部,カラハリ砂漠.ミーアキャットの娘たちはヘルパーとしてさまざまな仕事をこなし,母親に尽くしていました.そんな娘を母親が追い出したのは,子育てを確実に行うと同時に,娘の独立を促すためでもありました.

母親が群れでの出産を独占する社会.それは砂漠という厳しい環境で子孫をつなぐための巧みな戦略だったのです.

 

 

www.nhk.or.jp

ミーアキャットは、アフリカ南部の、広々とした乾燥地に住んでいる。家族で縄張りを作り、日中、縄張りの中の昆虫やサソリを捕えて食べる。夜は、地面に掘ったトンネルのような巣穴で休む。巣穴は、日中、天敵などが現れたときに、逃げ込む隠れ場所としても使う。
ミーアキャットの行動は、北アメリカの大平原に住むプレーリードッグに似ている。家族で縄張りを構え、日中活動することや、ときどき体を立てて周囲を警戒し、危険が迫ると鋭く鳴いて仲間に知らせ、巣穴に逃げ込むことなど、共通する特徴だ。
ミーアキャットは肉食のマングースの仲間で、プレーリードッグは草食のリスの仲間だから、全く異なる動物。広々とした乾燥地という、似た環境に適するよう進化した結果、行動が似てきたのである。

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