アフリカ南部カラハリ砂漠に暮らすミーアキャット. その群れの仕組みはちょっと変わっています. 群れにはたくさん大人のメスがいますが,子供を産むのは一匹だけ.みんなの母親です.娘たちは大きくなっても母親の子育てを手伝い,ヘルパーと呼ばれています.群れを守るため,敵とも果敢に戦うヘルパーたち. ところが,その娘がある日突然群れから追い出されます.「ミーアキャット母と娘の愛と葛藤に迫る」(1) NHKワイルドライフ

アフリカ南部カラハリ砂漠に暮らすミーアキャット.

その群れの仕組みはちょっと変わっています.

群れにはたくさん大人のメスがいますが,子供を産むのは一匹だけ.みんなの母親です.娘たちは大きくなっても母親の子育てを手伝い,ヘルパーと呼ばれています.群れを守るため,敵とも果敢に戦うヘルパーたち.

ところが,その娘がある日突然群れから追い出されます.独りぼっちで天敵におびえながらも,必死に生き抜く娘.しかし,何故母親はわが子を追い出したのでしょうか?母と娘の不思議な関係に迫ります.

 

この様な解説で始まったNHKBSプレミアム「ワイルドライフ」2017年2月13日(月)午後8時〜

f:id:yachikusakusaki:20170306232519j:plain

NHKネットクラブ (ワイルドライフ「南アフリカカラハリ砂漠 ミーアキャット母と娘の愛と葛藤に迫る」)

 

厳しい砂漠の自然に生きるミーアキャットの特異な大家族の有様をしっかりと捉えて伝えてくれました.一部を再録します.今回は番組前半のみです.

なお,ミーアキャットについては,

NHKダーウィンが来た」第107回(107回「熱血!ミーアキャット先生」│ダーウィンが来た!生きもの新伝説)でも取りあげられました.またネット上にもさまざまな情報があります(例えば,かわいいだけでは語れない!知られざるミーアキャットの生態 | Amp ミーアキャット|いきもの図鑑|ZOO CAN DREAM PROJECT).上記のNHKネットクラブのものに加え,これらのウェブサイトの写真を一部使わせて頂きましたので,画像は番組内容と異なっていますのでご了承下さい.

 

南アフリカカラハリ砂漠 ミーアキャット母と娘の愛と葛藤に迫る」(1)

アフリカ南部,乾燥した荒野が広がるカラハリ砂漠です.

f:id:yachikusakusaki:20170306234103j:plain

11月,乾期のまっただ中です.半年以上の間,雨は全く降っていません.南半球では,春から初夏にあたり,日中の気温は40℃にもなります.厳しい暑さと乾燥が乗り越えられず,息絶えてしまうものも少なくありません.

しかし,そんな過酷な場所で,たくましく暮らしている生き物がいます.

ミーアキャットです.

朝ねぐらの穴から出てきました.

キャットと名前がついていますが,ネコではなくマングースの仲間です.

もう一匹.ミーアキャットは群れで暮らしています.どんどん出てきました.

ねぐらの穴を出るとみんな立ち上がりました.前足をきちんとそろえてお行儀が良いですね.二本足で立っているように見えますが---,実はしっぽも支えにしています.その大きさ,立ち上がると30cmぐらいです.でもみんな並んで何をしているのでしょうか.

太陽の方に体を向けて,そう,日光浴です.

f:id:yachikusakusaki:20170306233315j:plain

砂漠の朝は20℃以下まで下がります.そのため,朝起きたら,まず日の光を浴びて体を温めるのです.

この群れは総勢15匹.母親とその子どもたち,そして,よそから来た数匹のオスから成ります.

こちらが母親.群れのリーダーです.母親の首には研究のため青い発信器がつけられています.

研究を中心になって進めている,デビット・ゲイナー博士.発信器からの信号を頼りに群れを長期間追跡しています.現在調査地で追っている群れの数は15ほど.それぞれの群れは直径数キロの縄張りをつくって暮らしています.

 

ミーアキャットたちの1日をじっくり見ていきましょう.

日光浴で体が温まったら活動開始.

地面を掘り始めました.こちらでも.前足を素早く動かしてどんどん掘っています.かすかな匂いを手がかりに,食べ物を探しているのです.何か見つけたようです.小さな虫です.

ミーアキャットの主な食べ物は地中に潜む小動物.前足を交互に動かして獲物を探ります.その前足の先.爪が細長く伸びています.この爪をちょうど潮干狩りの熊手のように使って捜すのです.

f:id:yachikusakusaki:20170306233420j:plain

見つけました.探すコツはとにかく前足を動かし続けること.砂漠では食べ物はそう簡単には手に入りません.

こちらずいぶん深く掘っています.実は地下深くにはごちそうがあるのです.見つけました.長さ10センチもある大物.サソリです.サソリには毒があります.大きく振り上げた尻尾.その先に毒針があって,刺されると人間なら命を落とすこともあるのです.ミーアキャットはドクに免疫がありますが,食べるにはコツが要ります.尻尾にかみつきました.最初に毒針を封じます.これでごちそうをゆっくり味わうことができます.

砂漠で食べ物を手に入れるには技が必要なのです.

f:id:yachikusakusaki:20170306234636j:plain

群れには小さな子供もいます.

f:id:yachikusakusaki:20170306234745j:plain

生後二ヶ月ほど.大人の後をついて食べ物を探そうとしますが---.なかなか見つけられません.するとそこへサソリをくわえた大人.子供に与えました.子供は生後三ヶ月程までは,群れの仲間から食べ物をもらいます.

その食べ物を運ぶのは,年上の兄弟たちの仕事.母親の子育てを手伝うこうした兄弟は,「ヘルパー」と呼ばれています.

群れには掟があり,出産するのは母親だけ.子どもたちは成長するとヘルパーとなって母親の子育てを助けるのです.オスの子供は一歳を過ぎると群れを出ていきます.しかし,メスは群れに残って大人になっても出産することなくヘルパーを続けます.ヘルパーの役割は他にもあります.

こちらは群れで一番年上のヘルパー.二歳の長女です.研究のためオレンジ色の発信器がつけられています.

(鳴き声)仲間が激しく鳴き始めました.みんな急いで近くの穴に逃げ込みます.上空にワシです.急降下して襲ってくる油断ならない天敵です.隠れるもののない砂漠では常に危険と隣り合わせ.そのためいつも誰かが見張っています.一匹が警戒している間,他の仲間は食べ物探しに専念できます.見張りは交代制.こうして群れのみんなが安心して食べられるというわけです.

ずいぶん高いところに登っています(発信器をつけた長女です).年上のヘルパーは特に熱心に見張ります.群れの安全を守るのは,ヘルパーたちの重要な仕事なのです.

ある日のこと,ヘルパーが何かに気づきました.地面に蛇.猛毒のコブラです(ケープコブラ).砂漠に潜んでいて,不意に襲ってくることもある,恐ろしい天敵です.

(鳴き声)ヘルパーが先ほどとは違う鳴き声を上げました.すると今度は群れの仲間が駈け寄ります.コブラのまわりに集まりました.群れの危険を排除しようと必死です.いく手を阻まれたコブラ.頭を持ち上げました.攻撃の態勢です.みんなでコブラを取り囲みます.母親が先頭に立って威嚇します.

f:id:yachikusakusaki:20170306235117j:plain

反撃するコブラ.かまれたら命はありません.ヘルパーたちも母親に加勢します.敏捷さではミーアキャットの方が,一枚上手.数の力でコブラを圧倒します.コブラはすごいスピードで逃げ出しました.母親とヘルパーの娘たち.力を合わせて縄張りの安全を守ったのです.

ミーアキャットが群れで子供を育てるのは,常に天敵に狙われているためです.食料が乏しい砂漠では,子育てはとても大変で,ヘルパーが必要なのです.

ミーアキャットは,娘がヘルパーとなって母を支えることで,厳しい環境を生き抜いているのです.

夕方,突然群れが一斉に走り始めました.向かった先はねぐらの穴です.ねぐらには,自分たちで掘った穴や,ジリスが掘った穴を利用しています.こうした穴が縄張りのところどころにあり,日替わりで使っています.1日の終わり.みんな思い思いにくつろぎます.

でも一匹崩れたねぐらの穴の入り口を直しているものがいます.オレンジ色の発信器.最年長の娘です.長女はとっても働き者なのです.一仕事終わったら,弟や妹たちと毛繕い.母親にもお休みの挨拶.母にとっても,長女は最も頼りがいのあるヘルパーです.

一日中仕事をこなしたヘルパーたち.もう眠そうです.群れは仲良くねぐらの穴に入っていきました.

日に日に気温が上がっていくカラハリ砂漠.この頃ミーアキャットの暮らしに変化が現れます.群れの縄張りに若いオスがやって来ました.オスは一歳を過ぎると自分の群れを離れます.そして,メスを求めてさまざまな群れの縄張りに侵入するようになるのです.

群れは異変に気づいたようです.なじみのないオスの匂いがするのです.真っ先に反応したのは父親.群れを乗っ取られる恐れもあるからです.自分の匂いを茂みにこすりつけていらだちを示します.立ち上がってよそ者を捜す父親.ついに見つけました.しかしよそ者は近づいてきます.更に近づいた時でした.父親が突進!群れの仲間も従います.

おや,その走り方.尻尾をぴんと立て,ぴょんぴょんと高く跳びはねています.まだ幼い子どもたちも一緒.これは「ウォーダンス」「闘いの踊り」と呼ばれる行動です.群れが一丸となって相手を威嚇.「捕まえたらただではおかないぞ」と伝えているのです.これではよそ者は逃げるしかありません.

f:id:yachikusakusaki:20170306235505j:plain

乾期の後半.こうした争いがあちらこちらで起きるようになっています.群れの母親にも変化がありました.お腹が大きく膨らんでいます.妊娠しているのです.交尾から出産まで2ヶ月ほど.赤ちゃんはお腹の中で急速に成長します.

母親は食べ物探しに大忙しです.子供が食べ物をもらおうと近づいてきますが,押しのけてしまいました.この時期母親が子供に食べ物を与えることは,めったにありません.これもお腹の赤ちゃんを確実に育てるためです.母親が大きな獲物を見つけました.鳩の死骸です.一度に食べられる量ではなさそうですが---.独り占めしようとしています.仲間を激しく追い払う母親.母親は妊娠すると攻撃的になるのです.

 

変化があるのは母親だけではありません.

こちらは先ほどとは別の群れ.

イブと名付けられた二歳のヘルパー.オレンジ色の発信器をつけた群れで一番年上の娘です.左肩に印がつけられているのも特徴です.おや,イブが群れをそっと離れました.どうしたのでしょうか?向かった先,もう一匹います.よそもののオスです.仲のよさそうなイブとオス.イブは十分に大人なのです.しかし,群れで子供を産むのは母親だけのはず.母親には秘密の許されざる恋です.オスと一緒に茂みの奥へ去っていきました.

一方,こちら,妊娠しているのはイブの母親のエッグ.首に青い発信器をつけています.背中に印があるのも特徴です.

戻ったイブがエッグに近寄ります.挨拶をしようとしますが,はねつけられてしまいました.母親は出産が近づくと妊娠する可能性がある娘を邪険に扱うようになるのです.

母親はヘルパーの出産を許しません.自分の出産と重なるかもしれないからです.ヘルパーの数に対して赤ちゃんが多すぎると結局一匹も育たなくなる恐れがあるのです.

翌朝ついに事件が起こりました.ねぐらの穴から出てきた群れ.イブは群れから離れた所にいます.一人で食べ物を探すイブ.

夜の間,ねぐらの中で,母親のエッグとの間に何があったのでしょうか?群れは移動を始めました.しかしイブはその様子を見ているだけ.加わろうとはしません.母親のエッグの様子がいつもと違います.自分の匂いを地面にこすりつけています.興奮しているときに見せるしぐさです.エッグの視線の先.イブです.群れのみんなもイブを見つめています.ヘルパーたちは常に母親を援護するように行動します.

イブに向かって一斉に走り出しました!逃げ出すイブ.威嚇を表すウォーダンスです.群れの掟を破ったイブは裏切り者とみなされたのです.イブは必死に逃げます.捕まったら群れの全員から攻撃されてしまいます.

f:id:yachikusakusaki:20170306235948j:plain

 

(以下続く 予定)