「その点(精神障害が本当に原因だったのか)が証明されていない段階にもかかわらず,今回の事件が精神科医療における問題として扱われ,厚生労働省が音頭を取る形で再発防止策の議論が進められていることに違和感がある」「監視の目的が透けて見える『支援』では信頼は得られない」監視より信頼築いて 精神科医 高木俊介さん 東京新聞「共にその先へ 中」相模原殺傷事件・半年

京新聞 2017年1月28日 朝刊 の記事をそのまま記載します

 

相模原の障害者施設殺傷事件が,「共生」を掲げる社会に与えた衝撃は大きい.事件は私たちに何を問い掛けるのか.私たちは事件から何を学ぶべきなのか.有識者に聞いた.

負の感情 隠さぬ社会 作家 高村 薫さん 東京新聞「共にその先へ 上」相模原殺傷事件・半年 - yachikusakusaki's blog

 

共にその先へ 中 相模原殺傷事件・半年

監視より信頼築いて 精神科医 高木俊介さん

digital.tokyo-np.jp 2017年1月28日 朝刊

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まず,「障害者はいなくなればいい」と訴えて19人もの命を奪った容疑者の行動は,精神障害が本当に原因だったのだろうか.

その点が証明されていない段階にもかかわらず,今回の事件が精神科医療における問題として扱われ,厚生労働省が音頭を取る形で再発防止策の議論が進められていることに違和感がある.

 

精神障害者の犯罪行為は必ずしも障害が原因になっている訳ではない.また残念なことだが,容疑者の主張に賛同する人間は少なくなく,さらにはナチスの虐殺事例などを見れば,同様の思想は精神障害とは関係なく存在している.

容疑者は事件前,障害者施設の襲撃を予告していたとされる.威力業務妨害や脅迫の容疑に当たると考えられ,警察は通常の司法手続きで対応すべきだったのに,強制力を伴う「措置入院」という医療に拙速に委ねられてしまった.

 

彼にとっては,軽蔑してきた障害者と自分が同様にみなされるという屈辱を感じ,元々持っていたヘイト思想をさらに強めるきっかけになった可能性もあるのではないか.

こうした考察を十分に踏まえ,安易に精神科医療に委ねるのではなく,司法と医療がいかに連携していくかという観点での検討を進めるべきだ.

 

一方,厚労省のこれまでの議論は,措置入院の解除の判断や退院後のフォローといった「出口」の問題が中心になっており,本来は最も慎重であるべき「入り口」を問題視する視点はほとんどなかった.

社会全体に「精神障害者だからおかしな事を考える」といった無知と偏見は根強く存在し,「社会の治安維持のため」として措置入院が保安処分の代わりに利用されているのが現実だ.

人身の拘束を伴う対応であり入り口は狭く設定すべきなのに,その状態を放置したまま出口面のみでの再発防止策を講ずれば,結局は患者の監視強化を招くことになる.

 

私は「安易な入院治療は患者から人間のプライドや知恵,生活を奪うことにしかならない」と考え,京都市精神障害者の在宅ケアを続けてきた.本人の自宅に往診し,悩みを聞いて生活の障害となっていることを取り除く.就労支援に家族との話し合い,買い物から庭の草むしりまですることもある.

入院中にはほとんど感情を表にしなかった人が,生き生きと自立して本来の生活を取り戻す様子を目の当たりにしてきた.支援や治療には信頼関係が欠かせないと実感している.監視の目的が透けて見える「支援」では信頼は得られない.

 

高木俊介 57年,広島県尾道市生まれ.京都大医学部卒.04年に京都市で「たかぎクリニック」を開設.

 

土脉潤起(どみゃく(つちのしょう)うるおいおこる)暖かな雨に,大地が潤い活気づく頃