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テレビ/ドラマ シューベルト ピアノソナタ第21番変ロ長調 D960とNHK土曜ドラマ夏目漱石の妻(尾野真千子/長谷川博己)第4回

「夏目の家内でございます

 夏目家を訪れた大塚楠緒子(壇蜜)に対しての鏡子(尾野真千子)の挨拶.尾野真千子さんの表情,しぐさ,特に声のトーン!笑わなかった方はいないのでは?もしかしたら撮影現場も大笑い?NHK土曜ドラマ夏目漱石の妻(尾野真千子/長谷川博己).尾野真千子さん,長谷川博己さんの演技に堪能しました.

そして,挿入曲シューベルトピアノソナタ21番変ロ長調D960 が静かな話題となっているとのこと.

最終回では夫婦による激しい言い争い(場面1),及び,金之助の病が癒えて穏やかな日常での会話(場面2)で,同じ旋律:第一楽章主題が用いられていたのが,印象的でした.

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場面1

荒井(満島真之介)の言葉もあり, 大塚楠緒子(壇蜜)への嫉妬心を抑えきれない鏡子.漱石の未発表稿「文鳥」を読みたいと迫るが---

金之助「これはダメだ」

鏡子文鳥のことであなたは私に手をお上げになった.私はあなたにとって何なんでしょうか.文鳥以下の値打ちですか」金之助「馬鹿なことを」鏡子「馬鹿なことかどうか読めば分かるじゃありませんか.私はあなたの妻です.それぐらいのお願い聞いて下さって良いはずです」金之助「よせ」(激しく突き飛ばす)

金之助(倒れた鏡子の背中に向かって)「夫がいやだというものをおまえは力尽くでとるつもりか」鏡子「そんなにおいやですか」金之助「いやだ」

シューベルトピアノソナタ21番の挿入開始

鏡子(振り向いて)「じゃお聞きします.その中に出てくる女の方を愛されたように,私も愛されてきたでしょうか?」(険しい顔で妻を見つめる金之助)鏡子「答えて下さい.私一度聞きたかったんです.これまで愛されたでしょうか?」

シューベルトピアノソナタ21番音量大きくなる

金之助「さっき君は答えていたじゃないか.主人にそんなことは答えられない.小説のことしか頭にない人だって」鏡子「それでよろしいのですか」金之助「いい答えだと思うがね」鏡子「このうちはどこか壊れていますよ.荒井さんが言ったとおり」

シューベルトピアノソナタ21番大音量のうち終了

 

場面2

胃潰瘍による生死の境を切り抜けた金之助は,ある日,長野へ講演旅行に旅発つことに.渋る金之助を尻目に,鏡子は同行を決め,旅行の荷造り.名古屋へ嫁ぐことが決まった従姉妹の山田房子(黒島結菜)は夏目家での最後の手伝い.

鏡子「妻は家にいてお留守番,もうそういう時代ではないんです」房子「私もそうだと思うんです.先日平塚さんがおいでになったでしょう.今度女たちのための雑誌をつくるんだっておっしゃってました」金之助「あー,青鞜社ね,平塚君も変わった人だからな」房子「でも,おっしゃっていることは間違っていないと思いました.人には個性がある,女にもある.女も男の人と同じように個性を活かした生き方があるはずだって.美しい生き方はそこから生まれるはずだって」金之助「ふーん」

シューベルトピアノソナタ21番の挿入開始

房子「私この四年間,鏡子さんの側に置いていただいて,そのことがよく分かったんです」鏡子「えっ?」房子「人には個性がある.女にもある.そこから美しい生き方が生まれるっていうことが.」(うなずき微笑む鏡子.浮かぬ顔で咳払いする金之助)

 金之助「しかし残念だな,房子ちゃんは名古屋に行くのか,ぼくはてっきり家に来る---とか小宮柄本時生と一緒になっていい奥さんになると思ったんだが」房子「それだけはないと思ってました」金之助「ん?」鏡子「そうね,ないでしょうね」鏡子・房子「うふううう」金之助「何でないんだ」(鏡子と房子の笑い声)

講演先長野,丘の上に立つ二人

鏡子「ねえ あなた.一度聞いてみたかったんだけど,あなたがお書きになった坊ちゃん,きよというばあやが出てきますでしょ?子供の頃,坊ちゃんが乱暴者でお父さんにしかられてばかりいて,でもばあやのきよさんは,いつも坊ちゃんをかばっていろいろ世話を焼いてくれるじゃないですか」金之助「うん」鏡子「性格は生一本で,男っぽいところはあるけれど,やさしくて,四国へ行った坊ちゃんに恋文のような長い手紙を書いて,ああしろこうしろってお説教して」金之助「それがどうしたんだ」

鏡子(笑いながら)「あれ  わたしでしょ?」

 シューベルトピアノソナタ21番 ここでひっそりと終わる

 

夫婦による激しい言い争い(場面1)と病が癒えて穏やかな日常での会話(場面2)は正反対のエピソード.しかし,どちらの場面でも同じ旋律の挿入曲が画面を引き締めていると感じました.不思議な楽曲ですね.主題にあたる同じ旋律が挿入されていましたが,曲中の異なった演奏部分を使用しているようにも思えましたが---.もともとこの曲自体,多様なイメージを内に秘めているのか---.

 

実は,この曲は,クラシックに疎い私なのに,たまたま気になって最近聞き始め,しかも2名の演奏者のCDを買い求めた(そんなことは普通はしない)曲でした.

挿入曲として流れてきたときはビックリ.この曲の秘密?をこれからゆっくり考えていくことにしましょうか.しかし,クラッシック音楽を聴くのに必要なよい再生装置がない!

 

この謎を考えるために,クラシック素人の私なりに手がかりになりそうな資料を集めてみました.クラシック音楽には精通した方で,既に答えが分かっておいでの方も多いでしょう.そのような方は以下読むべからず.

ウェブ上の音源: シューベルト: Schubert, Franz/ピアノ・ソナタ 第21番 変ロ長調| ピティナ・ピアノホームページ ここでは外部音源も入れて3名の方の演奏を聴くことができます(下記のハスキルさんも含め).シューベルト ピアノ・ソナタ 第21番 - YouTube では10数名の演奏者の名前が見えます.

CD:沢山の演奏者のものが発売されています.ドラマで使われた田部京子さん演奏のものを含めて.ちなみに,私が持っているのはクララ・ハスキルさんとクリスティアン・ツァハリアスさん.それぞれの演奏に対しての評があります.ハスキルさんに対しては吉田秀和さんの「世界のピアニスト,ちくま文庫」.ツァハリアスさんへは,直接的な評ではありませんが,ウェブ上でシューベルト ピアノソナタ第21番変ロ長調D960(解説と視聴). 興味深いのは,後者のウェブサイトの筆者が,第一楽章について「ほんのり明るくホッとできる」と吉田秀和さんの評とは真逆の説明をしていること.演奏者による多様な解釈/聞く側の様々な好みが曲自体に対する多様な解説を引き出している?

本: おそらく音楽評論家による沢山の解説書が見つかるのでしょう.特定の演奏者について書かれたものですが,上記の「世界のピアニスト,ちくま文庫」もその一つ.また,専門外の方が書いたウェブ上でも話題になっている本があります.村上春樹さんの「意味がなければスイングはない,文春文庫」.一章をかけてシューベルトピアノソナタ17番ニ長調D850について記載しています.副題が「ソフトな混沌の今日性」.21番ではありませんが,春樹ファン,アンチ村上にかかわらず,シューベルトピアノソナタについて知る手がかりになるような気がしています.

 なお,シューベルトの曲は第何番という言い方は混乱があって好まれていないよう.例えば,未完成交響曲は以前は第8番だったのに今は第7番になっている!ピアノソナタも未完のものが沢山あって,生前は出版されないままのものも多かったとのこと.必ずD(ドルチェ)番号をつけるのが正式で,第何番の数字は省かれる場合もあるようです.例えば「ピアノソナタ変ロ長調 D960」のように.

 

蟋蟀在戸(しつそつこにあり) コオロギ(キリギリス説もあり)が戸口のあたりで鳴く頃