ガガイモ(カガミ)4 名称と漢字 ▽「かがみ」は,ガガイモの古名. 日本国語大辞典“かがみ”には,「ガガイモの古名」と明記してあります. ▽かがみ(かかみ)は羅摩.ガガイモも羅摩と書きます. さらに,羅摩をカガミイモと読んでも,ラマと読んでも良い. ▽ガガイモの語源はよく分かっていないが,最も信頼できそうな語源は: 「カガミイモ⇒ガガイモ」(大言海) ▽カガミ(⇒カガミイモ⇒ガガイモ)がなぜカガミ「イモ」と呼ばれるようになったのか?不明です.  “植物をたどって古事記を読む”シリーズ

“三浦祐介訳・注釈 口語訳古事記[完全版]文藝春秋” をテキストとした “植物をたどって古事記を読む”シリーズ.

 

オホクニヌシ(オホナムヂ, アシハラノヨコヲ)の国づくりを助けたスクナビコナ

小人神で,現れたときに乗っていたのがアメノカガミ船(天之羅摩船).ガガイモので作った船でした.

 

(三浦祐介氏はアメノカガミ船としていますが,従来はアマノカガミ船との訓が多いようです.

 精選版 日本国語大辞典の解説では,

 天の羅摩船(読み)あまのかがみぶね; ガガイモの実を割って作った舟.上代神話で少名毘古那神(すくなびこなのかみ)が乗ってきたと伝える.)

 

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 ガガイモ - Wikipedia

 

今日は,このガガイモの名前について整理してみました.

整理と言っても---

個人的に気になったこと/気がついたことを辞典で調べた内容の箇条書きになってしまい,

ほとんどの方にはどうでもいいことの羅列です.

 

ガガイモ4 名称と漢字

 

▽「かがみ」は,ガガイモの古名.

 日本国語大辞典“かがみ”には,「ガガイモの古名」と明記してあります.

 

 ただし,

凡例に挙げられている日本書紀では,

“白蘞”と書いて,“かかみ”と読ませている.(本来,蘞は旧字体.しかし活字にありません)

ややこしいことに----

 “白蘞は,本来はカガミグサ(鏡草)を意味する漢字” で,本来,かがみと読ませるには無理がある.

(実は,さらにさらにややこしいことに “白蘞は,鏡草の根の生薬名が本来の使い方”)

これを“かかみ”と読ませる根拠として,日本国語大辞典には,次のような注釈が加えられています.

( 白蘞は)“内容上別の草であるが,「蘿摩」と相通じ用いたものと認められる”. 

古事記の使用例を手本とした場合,“相通じ用いたものと認められる”ということなのでしょう.

 

精選版 日本国語大辞典の解説

かがみ【蘿藦】

① 植物「ががいも(蘿藦)」の古名.

 かがみ【蘿藦】 

 ※書紀(720)神代上(兼方本訓)「一箇(ひとり)の小男(をくな)有りて,白蘞(カカミ)の皮を以て舟に為(つく)り」

② =かがみぐさ(鏡草)

 ※色葉字類抄(1177‐81)「薟 カカミ」

 [補注]「書紀‐神代」の「白蘞」は,実はブドウ科のつる草カガミグサのことで,根を薬用としたもの.したがって内容上別の草であるが,「蘿摩」と相通じ用いたものと認められる.

 

▽かがみ(かかみ)は羅摩.ガガイモも羅摩.

 加えて,羅摩をカガミイモと読んでも,ラマと読んでも良い.

 

天之羅摩(アメノカガミ)船の“羅摩”(かがみ)という漢字は.ガガイモにもあてられています.

 

広辞苑 第七版

がが‐いも 【蘿藦】

キョウチクトウ科(旧ガガイモ科)の蔓つる性多年草.長い根茎がある.葉は長心臓形,茎葉を切れば白汁が出る.夏,葉腋に淡紫色の花をつける.果実は長さ10センチメートル余の楕円形,種子に白色の長毛がある.種子を乾燥したものは生薬の蘿藦子らましで,乾葉とともに強精薬とし,また種子の毛は綿の代りに針さしや印肉に用いた.乳草.シコヘイ.ゴガミ.スズメノマクラ.クサパンヤ

 

蘿藦をガガイモと読むようになったのは,かなり後のこと.

日本国語大辞典の凡例を見る限り,大和本草(1709年)にガガイモと読んでいる例が見つかっているそうです.

 

そして,蘿藦の読み方についてはさらにややこしいことが---

蘿藦をカガミイモと読む場合もあれば,

蘿藦をラマとも読む!

 

精選版 日本国語大辞典の解説

がが‐いも【蘿藦】 ----略----《季・夏》 〔大和本草(1709)〕

 

かがみ‐いも【蘿藦】

〘名〙 植物「ががいも(蘿藦)」の異名.《季・夏》

 

ら‐ま【蘿藦】

〘名〙 植物「ががいも(蘿藦)」の漢名.〔物類称呼(1775)〕

(ラマは漢名とあります.しかし,ネット上の中国語辞典に蘿藦はみつかりません.余り使われていない?日本製漢名?)

 

▽ガガイモの語源はよく分かっていないが,最も信頼できそうな語源は:

「カガミイモ⇒ガガイモ」(大言海

 

ガガイモの語源については,ネット上では様々な説が紹介されています.しかし,決定的なものとして万人に認められているものは無いようです.

その中で,もっとも信頼できそうな説が,カガミイモ⇒ガガイモ.

もともとは,大言海にあった説として,小学館・日本語源大辞典は次のように記しています.

 

ががいも【蘿藦】

[語源説]

カガミイモの略転.カガミは古名〈大言海

 

 

▽カガミがなぜカガミ「イモ」と呼ばれるようになったのか?

 ガガイモがカガミイモから生まれた名前だとして----

 なぜ,カガミがカガミイモとなったのかは全く不明です.

 ガガイモはイモではないのに!

 

このことに疑問を持っているのは私だけではありません.ネット上では,都立薬用植物園のガガイモの解説をしている方も,とても不思議がっています.

http://www5f.biglobe.ne.jp/~homepagehide3/torituyakuyou/kagyou/gagaimo.html

 

以下は,素人の妄想.

カガミは,鏡と同じ音.紛らわしい.

 

それでは,カガミグサとしてもいいのですが---

(実際,この呼び方もあったようです)

ビャクレン等,カガミ草と呼ばれるものは沢山ある.

 

精選版 日本国語大辞典の解説では,

かがみぐさ

始めにカガミグサ/ビャクレンが取り上げられていて,

ブドウ科のつる性草本.-----漢名,白.和名カガミグサ,またはビャクレン.かがみ.やまかがみ.

② に ,今取り上げている)ががいも.“「ががいも(蘿藦)」の古名.”

 

以下

③ 植物「うきくさ(浮草)③」の古名.《季・夏》

④ 古く,宮中で,元日に鏡餠の上に置いた大根の輪切りの称.また,大根そのもの.

⑤ 植物「あさがお(朝顔)」の異名.

⑥ 植物「やまぶき(山吹)」の古名.

⑦ 植物「まめづた(豆蔦)」の古名.

⑧ 植物「いよかずら(伊予葛)」の古名.

⑨ 植物「かたばみ(酢漿草)」の古名.

⑩ 植物「ちどめぐさ(血止草)」の古名.

⑪ 植物「いちやくそう(一薬草)」の異名.

 

紛らわしいので,カガミグサ以外の別の名前に----

実の形,もしくは根っこが芋と見えなくもない---?

それで---カガミイモ.

 

そんなわけはありませんよね.

(密かに,そうかもしれないと思っていますが)

ガガイモ(かがみ)3 「ガガイモの実でできた船(アメノカガミ船)に乗ってきた小人神はスクナビコナ」と知っていたクエビコ.挿話の最後で正体が明かされます.「足を歩ませることはできぬが,何から何までこの世のことをお見通しの神である“山田のソホド”」 であると.ソホドは「案山子」の意(古語).そして僧都の古形ともなっています.カカシには,多くの民俗学的な研究がありますが,“神である山田のソホド”とどのようなつながりがあるのかは,調べきれませんでした. “植物をたどって古事記を読む” 

オホクニヌシ(オホナムヂ)の国づくりを助けたスクナビコナ

長さ10センチのガガイモの実でできた船(アメノカガミ船)に乗り,

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 ガガイモ - Wikipedia

 

“ヒムシの皮をそっくり剥いで,その剥いだ皮を衣に着て依り来た”「小さい大地の神」.小人神でした.

この挿話では,スクナビコナ以外のも異形の神が登場します.タニグクとクエビコ.

 

この神の名前を誰も知りませんでしたが---

「クエビコがかならずや知っておりましょう」と進言したのが,タニグク.

タニグクは,ヒキガエルのこと.地の果てを支配する神と考えられています.

 

 

ガガイモ(かがみ)3  “植物をたどって古事記を読む”  

 

召し出されたクエビコが答えます.

「この方はカムムスヒの御子スクナビコナ様にちがいありません」

 

カムムスヒは,高天の原に最初に成り出た三柱の神の1人.「いつのまにやら身を隠してしまわれた神」ですが---

 

カムムスヒが “手の指の間から落としてしまった” わが子と証言します.

 

クエビコの答えは間違っていませんでした.

 

そして,この挿話の最後に,クエビコの正体が明かされます.

「足を歩ませることはできぬが,何から何までこの世のことをお見通しの神である“山田のソホド”」

であると.

 

三浦祐介氏の脚注によれば,

山田のソホド “田に立つカカシ.ソホドのソホは,濡れそぼつなどのソボと同じ.”

 

日本国語大辞典広辞苑でもソホド/ソオドは案山子.

 

ソオド/ソホド

▽精選版 日本国語大辞典の解説

山田の案山子(読み)やまだのそおど

やまだ【山田】 の=案山子(そおど・そおず)[=僧都(そうず)]

山田にあるかかし.

古事記(712)上「謂はゆる久延毘古(くえびこ)は,今者(いま)に山田之曾富騰(やまだのソホド)といふぞ.此の神は,足は行かねども,尽に天の下の事を知れる神なり」

広辞苑 第七版

そおど 【案山子】 ソホド

(ソホヅの古形)かかし.古事記(上)「くえびこは今に山田の―といふぞ」

 

カカシだったんですね.

カカシは,民俗学的見地から,多くの研究が行われています.

 http://yachikusakusaki.hatenablog.com/entry/2017/10/29/171413

2017-10-30

かかしは,民俗学の重要な研究対象!かかしという言葉の由来である「かがし(嗅がし)」は,いまでも方言として残っている.そして,“ 始めて鳥獣の縅し(おどし)のこの人形を立てた人の心持は,これが自分達の姿のように見えて,相手を誤解させようというのではなかった. 形はどうあろうともこれが霊であって,むしろ人間以上の力で夜昼の守護をするものと信じられていた”(柳田国男

 

この “かがし(嗅がし)であり守護霊である民間の案山子” と,古事記の “神である山田のソホド”.

どのようなつながりがあるのでしょう?

きっと,どなたかが解明しておられると思いますが

---残念ながら,調べきれませんでした.

 

 

なお,古事記に登場するソホドは,案山子を意味していますが,

日本国語大辞典広辞苑によれば,“ソホドはソホヅ僧都の古形”とあります.

僧都といっても,僧の階級を示している僧都ではありません.

案山子を僧都と呼んでいた時期があった!

まとめれば,

「案山子は僧都と呼ばれていた.そして,僧都の古形がソホド」

 

日本国語大辞典には,13世紀の使用例が示されています.

僧都②=そおず(案山子) 発心集(1216頃か)—「山田もる僧都(ソウズ)の身こそ哀れなれ秋はてぬれば,問ふ人もなし」

 

 

古事記 神代編 其の四

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----

 オホクニヌシが,出雲の美保の岬にいました時じゃが,波の穂の上を,アメノカガミ船に乗っての,ヒムシの皮をそっくり剥いで,その剥いだ皮を衣に着て依り来る神があったのじゃ.オホクニヌシがその名を問うたのじゃが何も答えず,また,お伴の神たちに尋ねてみても,みな,「知りません」と申し上げるばかりじゃった.

 それで困っておると,タニググが進み出て,

「この方のことは,クエビコがかならずや知っておりましょう」と,そう言うたので,すぐさまクエビコを召し出しての,お尋ねになると,クエビコは

「この方は,カムムスヒの御子,スクナビコナ様に違いありません」と答えたのじゃ.

 そこで,母神であるカムムスヒに申し上げると,お答えになることには,

「この子は,まことにわが子です.子供たちの中で,私が手の指の間から落としてしまった子なのです.どうかアシハラノヨコヲと兄弟となって,あなたの治める国を作り固めなさい」ということじゃった.

 そこでの,それからは,オホナムジとスクナビコナと二柱の神はともに並んで力をあわせ,この国を作り固めなさったのじゃが,あるとき,スクナビコナは,ふっと常世の国に渡ってしまわれたのじゃ.

 それで,そのスクナビコナの名と筋とを明らめ申した,あのクエビコは,今でも山田のソホドというのじゃ.この神は足を歩ませることはできぬが,何から何までこの世のことをお見通しなのじゃ.

ガガイモ(カガミ)2 長さ10センチのガガイモの実でできた船(アメノカガミ船)に乗ってきたスクナビコナ.誰も,この神の名前を知りません. そこで,「クエビコがかならずや知っておりましょう」と進言したのが,タニググ.タニグクはヒキガエルのこと.祝詞によれば,地の果てを支配する神.万葉集でも,「たにぐく のさ渡る極み」詠まれ,「ヒキガエルが這って行く地の果てまで」の意を表しているとのことです.“植物をたどって古事記を読む” ガガイモ

“三浦祐介訳・注釈 口語訳古事記[完全版]文藝春秋” をテキストとした “植物をたどって古事記を読む”シリーズ.

 

取り上げている植物は “ガガイモ(かがみ)”

 

オホクニヌシ(オホナムヂ,アシハラノヨコヲ)の国づくりを助けたスクナビコナ

長さ10センチのガガイモの実でできた船アメノカガミ船)に乗り,

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ガガイモ - Wikipedia

 

“ヒムシ(蛾か鳥の名前)の皮をそっくり剥いで,その剥いだ皮を衣に着て依り来た”「小さい大地の神」.

小人神でした.

 

本人は名乗ろうとしません.

そして,誰も,この神の名前を知りません.

そこで,「クエビコがかならずや知っておりましょう」と進言したのが,タニグク.

 

タニグク ヒキガエルのこと.祝詞によれば,地の果てを支配する神.(三浦祐介氏 脚注)

 

広辞苑では,ヒキガエルの古語とあります.

 

たに‐ぐく 【谷蟆】

ヒキガエルの古名.万葉集(5)「―のさ渡る極み」

[広辞苑 第七版]

 

万葉集でも,詠み込まれているんですね.

広辞苑にある「たにぐく のさ渡る極み」.これは,山上憶良,高橋連虫麻呂が使用している表現.

蟾蜍(たにぐく) - 万葉の生きものたち

 

万葉の表現からも,たにぐくが古事記で,“地の果てを支配する神”として描かれていることが納得できます.

 

▽この照らす 日月の下は 天雲の 向伏す極み たにぐくの さ渡る極み 聞こし食す 国のまほらぞ・・・・・

(山上臣憶良 万葉集 巻五 八〇〇)

・・・・・地上を照らしている日と月との下は,空の雲が棚引く果てまで,またヒキガエルが這って行く地の果てまで,天子様の治め給う秀れた国であるぞ.・・・・・蟾蜍(たにぐく) - 万葉の生きものたち

 

▽・・・・・山のそき 野のそき見よと 伴 の部を 班ち遣はし 山彦の 応へむ極み たにぐくの さ渡る極み 国状を 見したまひて 冬ごもり 春さり行かば 飛ぶ鳥の 早く来まさね・・・・・

(高橋連虫麻呂 万葉集 巻六 九七一)

・山の果て野の果てまで見よと,配下の者どもをそれぞれの部署に着かせ,山彦の答える限りの地,ヒキガエルが這って行く限りの地までも,国の有様を御覧になって,冬ごもり春になったら,飛ぶ鳥のように早くお帰り下さい.・・・・・蟾蜍(たにぐく) - 万葉の生きものたち

 

 

この神について,

国学院・デジタルミュージアム万葉神語辞典は,次のように解説しています.

國學院デジタルミュージアム

 

たにぐく

谷蟆

Taniguku

ひき蛙.

古事記の神代では,大国主神の国作りの段において,少名毘古那神の名を明かす場面に「多邇具久」が見える.大国主神に従う諸の神は少名毘古那神の名を明かすことが出来ず,尽く天の下の事を知れる神である「久延毘古」によって,その名が明かされるのだが,久延毘古ならば知っていると注進する役割を多邇具久が果たす.

谷蟆とは,国土の隅々まで知り尽くした存在であるとするものや,地上を這い回る支配者とする解釈などがある.谷蟆は,地上の至る所に存し,それゆえ,地上のことを知る存在と認識されていたと考えられる.

これらは万葉集における「たにぐくのさ渡る極み」という語からもうかがえる.

万葉集では,「山上憶良の惑へる情を反さしむるの歌」において,「倍俗先生」と名乗り,俗世を離れたと自称する者に対して,地上の全ては天皇の支配領域であると諭す際に,「天雲の向伏極み谷蟆のさ渡る極み」(5-800)と見え,身体が地にある以上,天皇の支配領域以外の場所に存することは出来ないという意味であろう.

これは,天皇の地上における支配領域が谷蟆の渡るところすべてとする認識を基盤とする表現であり,その根底には,天孫降臨に先行して行われた大国主神からの支配権の献上という行為があると考えられる.  坂根誠 

 

なお,小学館・日本語源大辞典によればヒキガエルの語源説としては,

1. フクルルカヘル(ふくれるところから 日本釈名),

2. ヒキガヘル(這い歩くところから 名語記).

3. イキガヘル(気を吐くところから 滑稽雑談) 等があるそうです.

 

 

古事記

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神代編 其の四

 ----

 オホクニヌシが,出雲の美保の岬にいました時じゃが,波の穂の上を,アメノカガミ船に乗っての,ヒムシの皮をそっくり剥いで,その剥いだ皮を衣に着て依り来る神があったのじゃ.オホクニヌシがその名を問うたのじゃが何も答えず,また,お伴の神たちに尋ねてみても,みな,「知りません」と申し上げるばかりじゃった.

 それで困っておると,タニグクが進み出て,

「この方のことは,クエビコがかならずや知っておりましょう」と,そう言うたので,すぐさまクエビコを召し出しての,お尋ねになると,クエビコは

「この方は,カムムスヒの御子,スクナビコナ様に違いありません」と答えたのじゃ.

 そこで,母神であるカムムスヒに申し上げると,お答えになることには,

「この子は,まことにわが子です.子供たちの中で,私が手の指の間から落としてしまった子なのです.どうかアシハラノヨコヲと兄弟となって,あなたの治める国を作り固めなさい」ということじゃった.

 そこでの,それからは,オホナムジとスクナビコナと二柱の神はともに並んで力をあわせ,この国を作り固めなさったのじゃが,あるとき,スクナビコナは,ふっと常世の国に渡ってしまわれたのじゃ.

 それで,そのスクナビコナの名と筋とを明らめ申した,あのクエビコは,今でも山田のソホドというのじゃ.この神は足を歩ませることはできぬが,何から何までこの世のことをお見通しなのじゃ.

ガガイモ(かがみ)オホクニヌシ(オホナムヂ)が国を作り固めるとき,力を合わせた神がいました. 名はスクナビコナ. “アメノカガミ船”に乗ってやって来て,国づくりを助け,“ふっと常世の国に渡ってしまわれた” と挿話のような形で語られています.カガミは,ガガイモのこと.10センチほどのガガイモの実を二つに割ると船のような形をしています.スクナビコナは小さな大地の神の意をもつ子人神でした.  “植物をたどって古事記を読む”  

“三浦祐介訳・注釈 口語訳古事記[完全版]文藝春秋” をテキストとした “植物をたどって古事記を読む”シリーズ.

 

ガガイモ(かがみ)

八十の神々を追い払い遠ざけ,葦原の中つ国(=地上世界)の主となったオホクニヌシ(オホナムヂ,アシハラノヨコヲ).

 

国を作り固めるとき,力を合わせた神がいました.

名はスクナビコナ

“アメノカガミ船”に乗ってやって来て,国づくりを助け,“ふっと常世の国(神々が住まう永遠の世界)に渡ってしまわれた”

と挿話のような形で語られています.

 

“アメノカガミ船”とは,三浦祐介氏の脚注では,

カガミは,ガガイモというマメ科の植物.ガガイモの実を二つに割ると船のような形をしている.”

 

とありますが---

マメ科は誤り.

従来は,ガガイモ科.

現在は.

リンドウ目 Gentiales,キョウチクトウ科 Apocynaceae,イケマ属 Cynanchum,

ガガイモ C. rostellatum

 

「花期は夏で,画像のような先端が五つに分かれた花が咲く.

花はややや紫色を帯び,内側は一面に細かな毛があるのが特徴」

(植木ペディア ガガイモ - 庭木図鑑 植木ペディア )

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ガガイモ - Wikipedia

 

「実は長さ10センチほどで垂れ下がり,熟すと割れて中から長い綿毛のある種子が顔を出す.

この綿毛を集めて針指しやスタンプの印肉を作ることができる」(植木ペディア ガガイモ - 庭木図鑑 植木ペディア  )

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 ガガイモ - Wikipedia

 

長さ10センチのアメノカガミ船に乗ってきたスクナビコナ

衣は,“ヒムシ(鵝 蛾か鳥の名前とされる)の皮をそっくり剥いで,その剥いだ皮”.

とても小さな神様でした.

 

“原文に少名毘古那神とあり,巨軀をもつオホムナジに対して小さな大地の神の意をもつ子人神.

この二神の競争や共同事業を語る神話は,播磨国風土記に多く語られており,時には笑い話にもなる.”(三浦祐介氏脚注)

 

この物語には,スクナビコナ以外にもタニグク,クエビコ(山田のソホド)という,異形の神様が登場しますが,その解説は明日.

 

古事記

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神代編 其の四

----

 オホクニヌシが,出雲の美保の岬にいました時じゃが,波の穂の上を,アメノカガミ船に乗っての,ヒムシの皮をそっくり剥いで,その剥いだ皮を衣に着て依り来る神があったのじゃ.オホクニヌシがその名を問うたのじゃが何も答えず,また,お伴の神たちに尋ねてみても,みな,「知りません」と申し上げるばかりじゃった.

 それで困っておると,タニグクが進み出て,

「この方のことは,クエビコがかならずや知っておりましょう」と,そう言うたので,すぐさまクエビコを召し出しての,お尋ねになると,クエビコは

「この方は,カムムスヒの御子,スクナビコナ様に違いありません」と答えたのじゃ.

 そこで,母神であるカムムスヒに申し上げると,お答えになることには,

「この子は,まことにわが子です.子供たちの中で,私が手の指の間から落としてしまった子なのです.どうかアシハラノヨコヲと兄弟となって,あなたの治める国を作り固めなさい」ということじゃった.

 そこでの,それからは,オホナムジとスクナビコナと二柱の神はともに並んで力をあわせ,この国を作り固めなさったのじゃが,あるとき,スクナビコナは,ふっと常世の国に渡ってしまわれたのじゃ.

 それで,そのスクナビコナの名と筋とを明らめ申した,あのクエビコは,今でも山田のソホドというのじゃ.この神は足を歩ませることはできぬが,何から何までこの世のことをお見通しなのじゃ.

SNSは「正義の言葉」であふれるようになった.学習を経て『正義の言葉』にたどりついた // 「ローカルな人たちは,自分の価値観や利益が脅かされることに不安だから凶暴化している.だけど,この逆風は主流じゃないと信じています.一昔前の男子中学生の象徴は坊主頭でしたが,今は違う」//あらゆる物事には深刻さと滑稽(こっけい)さが同居していると考えているので //鴻上尚史さんに聞く 「息苦しいこの国」で生き抜くには 世界はいい方向に進んでいる  毎日新聞

毎日新聞 特集ワイド

作家・演出家 鴻上尚史さんに聞く… 「息苦しいこの国」で生き抜くには 

世界はいい方向に進んでいる  「ローカルな人たち」は凶暴化 

毎日新聞2019年10月28日 東京夕刊

 

 作家・演出家の鴻上尚史さん(61)は,ギャグに満ちあふれた芝居やエッセーなどを通じ,時事問題にも切り込んできた.近著では「世間」や「空気」に縛られて息苦しいこの国で,生き抜くための処方箋を示す.現代の日本は,その目にどう映っているのか.新作舞台などから「鴻上ワールド」をのぞいてみた.【沢田石洋史】

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 鴻上さんがツイッターの書き込みを検索していたとき,「おっ」と注目した言葉があったという.

<ストリートライブは道交法違反です>.誰にも否定されない「正義の言葉」だ.「もし逆に<路上ライブを認めてやれよ>と書き込めば,<あなたは法律違反を擁護している>とたたかれる」.ここ1,2年でソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)は「正義の言葉」であふれるようになったとみる.

 

 「スマートフォンを持った当初,人々は映画のうんちくなどを書き込んでいました.しかし,気取って感想を述べても,上には上がいて,否定されたり,炎上したりします.

そうした学習を経て『正義の言葉』にたどりついた.米国でも同じような現象が起き,ソーシャル・ジャスティス・ウオーリアー(社会正義戦士)と呼ばれています」

 

 スマホが普及して人々が「社会正義」を振りかざし「クレームの時代」に突入した――.

11月に公演が始まる新作舞台「地球防衛軍 苦情処理係」は,そんなアイデアから生まれたという.こんなストーリーだ.

 

 異星人や怪獣の襲撃を受けるようになった近未来,人類を守るために地球防衛軍が創設される.しかし,怪獣との戦いで発射したミサイルが街を破壊すると,住民から「弁償してほしい」といったクレームが相次ぐ.苦情処理係は「人類のために活動しているのに,なぜ文句を言われなければならないのか」と悩む.そこへ,「ハイパーマン」と名乗るヒーローが現れ…….

 

 「SF仕掛けにしたのは僕のテイストです.現実の生々しさを消すことができる.登場人物は『正義とは何か』を模索しますが,エンターテインメントでもあります.僕はウルトラマンを見て育った世代なので,リスペクトを込めてハイパーマンというキャラクターを登場させました」

 

 鴻上さんの書く芝居は,時事的な題材を扱ったり,政治的なキーワードをちりばめたりしても,正解のようなものを示さない.観客を一定の方向に誘導しようともしない.扱うテーマは重いのに,笑いを誘うことにこだわっているようにも見える.

例えば,2012年に初演され,16年に再演された「イントレランスの祭」.ヘイトスピーチをテーマにした芝居だが,登場したのは「地球に押し寄せてきた宇宙人の難民」だ.彼らとの共生はできるのか――との設定でドタバタ喜劇が展開される.

 

 こうした発想は,どこから生まれるのだろうか.

「人生って,悲劇でありながら同時に喜劇でもあると思っているんです.

例えば,人生に絶望して死のうと思った瞬間,パソコンのハードディスクに入っているエッチな画像を死後に見られたらどうしようかと考える.あらゆる物事には深刻さと滑稽(こっけい)さが同居していると考えているので,笑いは『芝居に必然』なのです」

 

 鴻上さんは「週刊SPA!」に1994年から「今,自分が何を考えているか」をテーマにコラム「ドン・キホーテのピアス」を書き続けている.連載は実に1000回を超す.

扱うテーマは身辺雑事から時事的なトピックまで幅広い.コラムを収めた最新の単行本「ドン・キホーテ走る」(論創社)を読んで,記者には気付いたことがある.

報道の自由が脅かされている現状や,原発問題などを取り上げても,自身の信条をことさら主張せず,問題提起に徹する姿勢が際立っているのだ.なぜか.

 

 「残念なことに,SNSの世界では敵か味方かをすぐに分類されてしまう.じっくり時間をかけて相手を分析するより楽だからです.

そして『敵』に分類されると,何を書いても反発される.だから,『敵か味方か分類しにくい』といった立場に身を置き,自分の考えを発信する.そうすると『ちょっとだけ聞いてみるか』と耳を傾けてくれるかもしれない」

 

 例えば「『圧力』と『原発』と名作映画」と題したコラムは,テロリストが全国の原発廃棄を要求する映画「天空の蜂」(15年公開)を評価する.鴻上さんはこう書く.

<反原発のキャンペーン映画だったら,僕は興奮しません.それは,ただの政治宣伝です>.その上で,原発関連施設で働く技術者の「誇り」をきちんと描いていることをたたえる.そして,テレビやスポンサーが扱おうとしない題材に出演した俳優らの決断を評価する.つまり,敵味方の立場を超えたメッセージになっている.

 

 では,どんな社会を理想とするのか.鴻上さんに聞くと,こんな答えが返ってきた.

 

 「僕は,世界はいい方向に進んでいると思っています.

ローカルで『逆風』が吹いていますが,性的少数者(LGBTQなど)が認知されるようになったし,『#MeToo運動』もそうです.大きな潮流では個人の尊厳と自由,多様性を尊重する方向に世界は進んでいます」

 

 「逆風」については,ナショナリズムをあおる幾つかの国の指導者を想起させるが,鴻上さんは名指しをしない.

 

 「ローカルな人たちは,自分の価値観や利益が脅かされることに不安だから凶暴化している.

だけど,この逆風は主流じゃないと信じています.日本でもそうです.一昔前の男子中学生の象徴は坊主頭でしたが,今は違う.選択的夫婦別姓はまだ認められていませんが,川下に水が流れるように,個人が自分の姓とナチュラルに向き合える時代になっていくはずです」

 

 多様性が尊重されるようになっても,日本には同じように行動するよう求める「世間」や「空気」が依然存在するという.

近著「『空気』を読んでも従わない」(岩波ジュニア新書)では,英ロンドンで97年から1年間演劇修業した経験などに基づき,どうすればこの国で生きることが楽になれるかを指南する.

 

 「例えば,帰国子女の女の子が学校に派手な服を着て行って,いじめられたとします.日本には同調圧力があるので,少女は日本というシステムそのものに直面している.このような大ボスと『闘え』と一方的にアドバイスするのは無責任です」.

ならば,どうすれば? 

「学校では,みんなと同じような服を着て,放課後に着たい服を着る.『その服,いいね』と認めてくれる仲間が一人でも増えたら,世間は少しずつ変わっていきます」

 

 中学,高校,大学と演劇を続け,22歳で劇団「第三舞台」(81~2012年)を旗揚げし,独自のスタイルで「日本というシステム」とも闘ってきたのが「鴻上ワールド」のようだ.

原動力は何だろうか.

「観客が劇場に入るときより,出るときに元気になってほしいというのが第三舞台からの変わらぬ思いです.僕自身,くじけそうになることがある.苦しい時代ではあるけれど,みんなで楽しく生きていきましょう,という思いかな」と締めくくった.

 

 ■人物略歴

鴻上尚史(こうかみ・しょうじ)さん

 1958年,愛媛県生まれ.早稲田大法学部卒.新作舞台「地球防衛軍 苦情処理係」は11月2~24日,東京・紀伊国屋サザンシアターTAKASHIMAYA,11月29日~12月1日,大阪・サンケイホールブリーゼ

mainichi.jphttps://mainichi.jp/articles/20191028/dde/012/040/002000c?cx_cp=nml&cx_plc=bnr&cx_cls=newsmail-digital_article

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一 バラのつぼみの上の雨粒 二 子猫のヒゲ --- この歌にならい井上は,好きなものを選定し恐怖を乗り切ったという.「大根おろしをのせた炊きたての御飯」--- 日常を断ち切ろうとするものに抗するには,大きな夢や理念はいらない.「井上ひさしの恐怖対処法」東京新聞10月28日夕刊.その通りですね.ただ,例えば,身近な愛する人を失うといった大きな悲しみに対しては? 大好きなマリアが一度トラップ家を去ったとき,子供たちはこの歌を歌ってみますが元気が出ません.

「映画サウンド・オブ・ミュージック/わたしのお気に入り(My favorite Things)」と「井上ひさし/自分のすきなもの」

 

東京新聞のコラム,大波小波(10月28日夕刊)井上ひさしの恐怖対処法」は,井上ひさしさんのエッセイをとりあげ,

「日常を断ち切ろうとするものに抗するには,大きな夢や理念はいらない.まず日常を埋める小さなものへの愛着こそが想起され,確かめられねばならない」

としています.

 

その通りですね.

ただ,例えば,身近な愛する人を失うといった大きな悲しみに対しては,このやり方は,おそらく通用しないだろうことは,頭に入れておいた方がいいかもしれません.

映画サウンド・オブ・ミュージックでは,大好きなマリアが一度トラップ家を去ったとき,子供たちはこの歌を歌ってみますが元気が出ません(*).マリアが戻ってきて一緒にうたい始めるまでは(この場面,マリアの歌声が聞こえるとグッときてしまいます.何回見ても).

 

 

大波小波井上ひさしの恐怖対処法」 東京新聞 10月28日夕刊

 ミュージカル「ザ・サウンド・オブ・ミュージック」の挿入歌「自分の好きなもの」.大意は「自分のすきなものを思い出せば,嵐なんか怖くない」.家庭教師の先導で,次々のそれを思い浮かべる子供たちは,やがて嵐の恐怖を乗り越える----.

井上ひさしベスト・エッセイ」(ちくま文庫)に入っている文章の一節だ.

 一体子どもたちは何を思い浮かべて巨大な嵐を乗り越えたのか.

井上の記憶に残るのは「バラのつぼみの上の雨粒」「子猫のヒゲ」から,「鼻やまつげの上に乗った雪の一ひら」まで(**).

 この歌にならい井上は,好きなものを選定し恐怖を乗り切ったという.

大根おろしをのせた炊きたての御飯」「湯吞(ゆのみ)から立ち上る煎茶の香」から,「自作新刊の手ざわり」まで(***).

井上らしいユーモラスな締め括(くく)りだが,好きなものがいずれも日常的で,実にささやかな事柄であり風景なのは変わらない.

 日常を断ち切ろうとするものに抗するには,大きな夢や理念はいらない.まず,日常を埋める小さなものへの愛着こそが想起され,確かめられねばならない.社会的事件,自然の猛威,大きな出来事が次々に襲い来る今,「自分の好きなもの」を心の中で反芻し,恐怖を越えるための糧としたいものだ.

  (日常賛歌)

 

 

⇒*

www.youtube.comSound of Music - My favorite things - YouTube

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⇒**

一 バラのつぼみの上の雨粒 

二 子猫のヒゲ

三 ピカピカに磨かれた鍋の薬缶(やちん)

四 毛糸編みのあったかな手袋

五 クリーム色の子馬

六 ドアの鈴

七 雪橇(ゆきぞり)の鈴

八 月にむかって飛んでいる雁の群れ

九 林檎の,パリパリ薄焼き

十 華やまつげの上に乗った雪の一ひら

 

これは,「サウンド・オブ・ミュージック(The Sound of Music)」の挿入歌「わたしのお気に入り(My favorite Things)」から,作家の井上ひさしさんが,「うろ覚えに子供たちが列挙した(自分のすきなもの)を書き出した」もの.元歌にある13(****)ある中から10の「好きなもの」が,順序を変えて並べられています.

井上ひさし「自分のすきなもの」(井上ユリ編 井上ひさしベスト・エッセイ ちくま文庫

 

 

⇒***

 “わたしも〈自分の好きなもの〉を幾つか選定して,恐怖を乗り切るとこのおまじないにしているが,参考までにそれをかきつけておこう.

一 大根おろしをのせた炊きたての御飯

二 湯吞から立ち上る煎茶の香

三 洗濯物を嗅いだときの陽の匂い

四 雨上がりの木々のあざやかな緑

五 わが子の寝顔

六 なにか食べているときの妻の顔

七 なにも書いていない原稿用紙の束

八 稽古場に差しこむ光の中に浮かぶ埃(ほこり)

九 成功した芝居の休憩ロビーのざわめき

十 自作新作本の手ざわり

井上ひさし「自分のすきなもの」(井上ユリ編 井上ひさしベスト・エッセイ ちくま文庫

 

⇒****

    My Favorite Things

    私のお気に入り


My Favorite Things from The Sound of Music


『サウンド・オブ・ミュージック』製作50周年記念吹替版 「私のお気に入り」/平原綾香<日本語歌詞付き>

    Raindrops on roses

    And whiskers on kittens

    Bright copper kettles

    And warm woolen mittens

    Brown paper packages tied up with strings

    These are a few of my favorite things

 

    バラをつたう雨だれ

    子猫のひげ

    ピカピカの銅のやかん

    あったかい羊毛のふたまた手袋

    紐で結ばれた茶色い小包

    それがわたしのお気に入り

 

    Cream-colored ponies

    And crisp apple strudels

    Doorbells and sleigh bells

    And schnitzel with noodles

    Wild geese that fly with the moon on their wings

    These are a few of my favorite things

 

    クリーム色の子馬さんや

    カリカリに焼いたりんごのシュトゥルーデル

    ドアのベルやスレイベルや

    ヌードルを添えたシュニッツェル

    月に羽ばたく野生のガチョウたち

    それがわたしのお気に入り

 

    Girls in white dresses with blue satin sashes

    Snowflakes that stay on my nose and eyelashes

    Silver-white winters that melt into springs

    These are a few of my favorite things

 

    白いドレスに青いサテン帯の少女たち

    わたしのお鼻やまつ毛にかかる雪の片

    春の訪れとともにとけてゆく白銀の冬

    それがわたしのお気に入り

 

    When the dog bites

    When the bee stings

    When I’m feeling sad

    I simply remember my favorite things

    And then I don’t feel so bad

 

    犬に噛まれたとき

    蜂に刺されたとき

    悲しい気分のとき

    ただわたしのお気に入りを思い浮かべるの

    そしたらそれほど悪い気分じゃなくなるわ

My Favorite Things(私のお気に入り)の歌詞(和訳)で英語の勉強【サウンド・オブ・ミュージック】 - 映画で英語を勉強するブログ

 

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東京新聞 10月28日夕刊

ギンモクセイ銀木犀/モクセイ 金曜日の大雨とはうって変わった穏やかな秋の日曜日.大仏殿での展覧会を見た後,銀木犀に出会いました.近くではっきりと見たのは今回が初めてです.穏やかな気持ちにさせてくれる花.とても気に入りました.モクセイの基本種で,今が盛りのキンモクセイは,銀木犀の変種扱いだそうです.かなり大きな樹の根元にはぎざぎざの葉が芽を出していました.どこにでもある樹の子供だと思いますが---,特定するには力不足.もっと早くから植物に興味を持っていたら---.

4日前,日曜日に,久しぶりに鎌倉大仏を訪れました.

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展覧会を見るため.

なんと,鎌倉大仏の後方を取り囲む回廊の壁を利用した,ぜいたくな展示でした.

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金曜日の大雨とはうって変わった穏やかな秋の日.いい時間を過ごさせてもらいました.

 

 

一通り見終わって,裏へ回ると---

キンモクセイ金木犀)が真っ盛り.それほど広くない庭に大小3本の樹が植えられていました.

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そして,横手に回ると---

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 鎌倉大仏殿高徳院

 

上品な白い花をつけた立派な樹木に遭遇.

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かなり大きな樹の根元にはぎざぎざの葉が芽を出すような形で----.

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ヒイラギ?でも切れ込みが小さいな.この樹は何の木?

 

しかし樹上に咲く花の形は,金木犀そっくり.そして,葉をよく見ると,根元の“芽”と違って切れ込みがない!

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植木を管理する人がいたので聞いてみました.

「ギンモクセイ(銀木犀)」とのこと.

やっぱり.

 

じつは,近くではっきりと見たのは今回が初めて.

以前,多分見たことはあるのですが,植物に全く興味がなかったため,ほぼ素通り状態で記憶は曖昧.

 

穏やかな気持ちにさせてくれる花.とても気に入りました.

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しかし---

根元に出てきていた葉は,樹上の葉と違います.別の樹の実が落ちて芽を出したものだったのでしょうね.

モクセイの仲間にヒイラギモクセイという種類があります.

「ギンモクセイとヒイラギの雑種と考えられている」とのこと.

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モクセイ - Wikipedia ヒイラギモクセイ - Wikipedia ヒイラギ - Wikipedia

かなり近い.でも葉の形はやや異なる---?.

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常緑の葉に見えるので,普通の「ドングリの木々」でもない?

どこにでもある樹だと思いますが---,特定するには力不足.

もっと早くから植物に興味を持っていたら---.

 

 

鎌倉駅から大仏までは,歩いて行ける範囲.西口〜大谷戸経由がオススメです.

植物を見ながらの行き帰り,真っ盛りのキンモクセイの花にたくさん出会いました.少なくとも9軒の樹を確認.

しかし,ギンモクセイには出会いません.もっと植えられてもいいのに.

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春ほどたくさんの花に出会うことは出来ませんが,気をつけてみると,かわいらしい花々を楽しむことができる道中でした.

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ギンモクセイは,

シソ目 Lamiales,モクセイ科 Oleaceae,オリーブ連 Oleeae,

モクセイ属 Osmanthus,

モクセイ(ギンモクセイ) O. fragrans

 

ギンモクセイとキンモクセイは同種!

変種扱いで,それぞれの種名は,

ギンモクセイ O. f. var. fragrans

キンモクセイ O. f. var. aurantiacus

モクセイ - Wikipedia

しかし,ギンモクセイが基本種とされ,単にモクセイといえば,ギンモクセイのことだそうです.

ギンモクセイ(銀木犀) - 庭木図鑑 植木ペディア

 

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おおぐま座とうしかい座4 古代メソポタミアで夜空に描かれた“ワゴン”は,ギリシャではおおぐま座に.ただし,星座名は失われましたが,この星座をワゴンとする物語がギリシャ神話として残されています.また,古代メソポタミアの軛(くびき)が,現在のうしかい座に当たりますが,この人物を「ワゴンの発明者BOOTES」とするギリシャ神話があります.実は,おおぐま座のワゴンの物語とうしかい座のワゴンの発明者BOOTESの物語は一つのギリシャ神話でした.

おおぐま座うしかい座 4 

 

北天に相並ぶ二つの星座,おおぐま座うしかい座

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星座図鑑・おおぐま座

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 星座図鑑・うしかい座 

 

古来,つながりの深い星座とみなされてきました.

例えば

▽古代メソポタミア

おおぐま座はワゴン(四輪の荷車),うしかい座は軛(くびき:二頭の牛をつなぐ用具).

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二つの星座を合わせて,牛に引かれたワゴン(四輪の荷車)とされていた可能性もあります.

http://yachikusakusaki.hatenablog.com/entry/2019/10/29/231337

 

古代ギリシャ

最もよく知られている神話では,おおぐま座は牝熊カリストーに擬せられています.

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CALLISTO (Kallisto) - Arcadian Princess of Greek Mythology

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Callisto (mythology) - Wikipedia

そして,うしかい座カリストーの息子のアルカスに.

この場合,うしかい座はArktophylax (the Bear-Watcher熊を見守る人) でBoôtes(現在のうしかい座ラテン語名Boötesにつながるギリシャ語)ではなかったようです.

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 Arcas in Greek Mythology - Greek Legends and Myths

http://yachikusakusaki.hatenablog.com/entry/2019/10/27/004250

 

このように,“つながりある点”は共通していますが,古代メソポタミア人が二つの星座に託してきた事象は,“ワゴン⇒おおぐま”を見る限り,古代ギリシャで一新されたように見えます.

カリストーの物語」は古代ギリシャの人々の心を強く捉えた.おおぐま座という星座まで新たに生み出すほど.

ということかもしれません.

 

しかし---

古代メソポタミアで夜空に描かれた“ワゴン”.星座名は失われましたが,ギリシャ神話としては残されていました.カリストーの物語」に陰に隠れてほとんど顧みられることはありませんが.

また,軛(くびき)も失われましたが,ワゴン(四輪の荷車)につながる神話がうしかい座にも残されていました.

そして,この二つの内容はつながりのある,というより一つの物語.

古代メソポタミアの星座;ワゴンと軛(くびき),をギリシャ神話に置き換えたものと言えると思います.

ただし,軛(くびき)とされたうしかい座は,このデーメーテールの息子BOOTESという人物で,彼がワゴン(荷車)を発明したとされています.

 

この二つの神話の概略は次の通り. the Theoi projectのサイトStar Myths | Theoi Greek Mythology から,拙訳で.

 

おおぐま座 URSA MAJOR

Star Myths | Theoi Greek Mythology

Latinラテン語 : Ursa Major (the Great Bear大熊)

Greekギリシャ語 : Arktos Megale (the Great Bear大熊) or Amaza (the Wagonワゴン) or Helikê

Akkadianアッカド語 : Eriqqu (the Wagonワゴン)

Sumerianシュメール語 : MAR.GÍD.DA (the Wagonワゴン)

ボーティス(ボーテス BOOTES)の荷車

牛に引かれたボーティスのワゴン(荷車)もしくは鋤(すき)が,星座Ursa Majorとして星々の間に置かれました.天空において,馭者はそれ(ワゴンまたは鋤)のすぐ後ろに立っています.(ヒュギーヌス 天文詩)

 

WAIN OF BOOTES

The ox-drawn wagon or plough of the farmer Bootes was set amongst the stars in the form of the constellation Ursa Major. Their driver stands immediately behind it in the heavens. (Hyginus 2.2.)

 

 

うしかい座 BOOTES (Boötes)

Star Myths | Theoi Greek Mythology

Latinラテン語 : Bootes (Boötes)

Greekギリシャ語 : Boôtes (the Wagon-Driver馭者) or Arktophylax (the Bear-Watcher熊を見守る人)

Akkadianアッカド語: Niru (the Yoke軛くびき / または,軛で連結された1対の牛[荷車用動物])

Sumerianシュメール語 : SHUDUN (the Yoke軛くびき / または,軛で連結された1対の牛[荷車用動物]) 

ボーティス(ボーテス BOOTES)

(ボーティスは)ワゴン(荷車)または鋤(すき)の発明者で,デーメーテールの息子.彼の人間への貢献に対する報償として,ボーティスは,星座Bootes(うしかい座)として星々の間におかれた.彼の牛と鋤は,荷車,すなわちUrsa Major and Minor(おおぐま座こぐま座)として,彼の横に置かれた.(ヒュギーヌス)

 

BOOTES

The inventor of the wagon or plough, a son of the goddess Demeter. As a reward for this service to mankind he was placed amongst the stars as the constellation Bootes. His oxen and plough were set alongside him as the Wain, i.e., the constellations Ursa Major and Minor. (Hyginus 2.4 on Hermippus & Petellides.)

おおぐま座とうしかい座3 うしかい座のラテン語名Boôtesはギリシャ語由来.意味は「the Wagon-Driver馭者」,「牛追い」,「鋤(すき)で耕す人」 or 「鋤(すき)」.どの辞書にも「牛飼」はなし.Boötesをうしかい座としたのは大きな誤り?しかし,現在のうしかい座の星座図は,確かに牛飼いに見えますが,19世紀初頭に描かれた星座絵とそっくり.私たちは, Boötesを見ているのではなく,19世紀初頭に考えられた星座をみて,「うしかい座」と呼んでいる?

昨日のブログで触れたように,

おおぐま座うしかい座は,共に古代メソポタミアバビロニア)においても星座として認められていました.

ただし,古代ギリシャと古代メソポタミアでは星座名の意味する内容は異なり,また,おそらく各星座を構成する星々も異なっていたようです.

yachikusakusaki.hatenablog.com

例えば,

うしかい座Boötes:

Greekギリシャ語では

 ・Boôtes (the Wagon-Driver馭者) or Arktophylax (the Bear-Watcher熊を見守る人),

古代メソポタミアでは

・Akkadianアッカド語: Niru (the Yoke軛くびき / または,軛で連結された1対の牛[荷車用動物])

・Sumerianシュメール語 : SHUDUN (the Yoke軛くびき / または,軛で連結された1対の牛[荷車用動物])

Star Myths | Theoi Greek Mythology

昨日触れなかった古代メソポタミアでのもう一つの名称=MUL.APINと呼ばれる目録(BC7世紀のコピーが現存)にある名称:SHU.PA(おそらくgod Enlil,神々のリーダーで農夫の守護者).

Boötes - Wikipedia

 

上記の日本語訳を見て,不思議に思ったことがあります:

Boôtesの意味は,the Wagon-Driver馭者.牛飼いではない!

 

改めて種々の英語辞典を調べてみました.

結果は次の通り.

 

ランダムハウス英語辞典

 Boötes

[1656.<ラテン語ギリシャ語 Boṓtēs, 字義は「牛追い」]

 

・Merriam-Websterでは

 ⇐ラテン語Boötis⇐ギリシャ語Boōtēs「鋤(すき)で耕す人」⇐bous家畜,特に牛の頭 

https://www.merriam-webster.com/dictionary/Bootes

History and Etymology for Boötes

 Latin (genitive Boötis), from Greek Boōtēs, literally, plowman, from bous head of cattle — more at cow

 

・Collins では

  17世紀⇐ラテン語ギリシャ語boōtein(鋤(すき))⇐bous 牛

https://www.collinsdictionary.com/dictionary/english/bootes

Word origin of 'Boötes'

 C17 via Latin from Greek: ploughman, from boōtein to plough, from bous ox

 

まとめると

うしかい座ラテン語名Boötesはギリシャ語由来で,意味は

「the Wagon-Driver馭者」,「牛追い」,「鋤(すき)で耕す人」 or 「鋤(すき)」.

 

ランダムハウス英語辞典の「牛追い」のみが,牛飼いに似ています.しかし「牛追い」は,牛を手なずけて働かせるイメージもあり,ワゴンの馭者,鋤で耕す人に近いともいえます.

 

うしかい座ラテン語名Boötesには,「牛飼い」の意味はない”

と結論づけて良さそうです.

 

では,Boötesをうしかい座としたのは大きな誤りだったのでしょうか?

命名のいきさつも歴史も知らない私には,はっきりしたことは分かりません.どなたかに教えて頂ければ,と思います.

 

以下は素人の妄想

次のようなことが可能性としてあるのでは?と思っています.

Boötesが牛飼いを意味するのではないにもかかわらず,うしかい座の星座図は,確かに牛飼いのように見えます.

 

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  星座図鑑・うしかい座

しかし,この星座絵は,古代ギリシャのものではないのではないのでは?

19世紀に描かれた“Urania's Mirror”(a set of 32 astronomical star chart cards, first published in November 1824)の絵とそっくり.

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Boötes - Wikipedia

 

この絵は,右手に槍を持っています.

二匹の犬を連れた狩人?

だとすれば,おおぐま座カリストーとした時の,カリストーの息子アルカスを表しているのでしょうか?

おおぐま座とうしかい座1 カリストーは,成長した息子アルカスにあわや槍で殺されそうに.しかし,ゼウスが助け,息子のアルカス共々星座とします.⇒「ゼウスは,2人を天に召し上げた.“Arctophylax (the Bear-Watcher)”と“Ursa (the Bear)”として」(Hyginus) - yachikusakusaki's blog

星座絵は古代ギリシャ時代のもう一つの名前, Arktophylax (the Bear-Watcher熊を見守る人)が,最適かもしれません.

 

別のサイトの星座絵.同じく19世紀初頭に描かれたもの.

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Star Tales – Boötes

槍は持っていません.右手に持つのは,牛を追うための道具だとすれば,牛飼いにも見えます.

重要なことは,“現在「うしかい座」として描かれる星座絵とほぼ同じ” ということ.

 

私たちは,古代ギリシャ名に由来するBoötesを見ているのではなく,19世紀初頭に考えられた星座をみて,「うしかい座」と呼んでいるのでは?

だとすれば---

▽「うしかい座」は正しい名称.

ギリシャ起源のラテン語名Boötesは不適切な星座名!?

おおぐま座とうしかい座2 相並ぶふたつの星座おおぐま座とうしかい座が,古代メソポタミアでは,一つの星座だった可能性があるという話題.この二つの星座には,アッカド語・シュメール語の星座名があり,古代メソポタミアから星座として認められていました.おおぐま座はワゴン.うしかい座は軛(くびき).二つの星座は非常に近い関係にあり,「牛に引かれた四輪の荷車を形成していた」と考えるのが妥当.大熊と牛飼いが,星座ワゴンという一つの星座だったと解説も見つかります.

おおぐま座うしかい座は,相並ぶふたつの星座.

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星座図鑑・おおぐま座

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星座図鑑・うしかい座

 

うしかい座」という名前がひっかかり,

http://yachikusakusaki.hatenablog.com/entry/2019/10/28/233527

調べ始めると,知らないことが次々に.

 

今日は,うしかい座という名前に対する私のささやかな疑問は横に置いて,

おおぐま座うしかい座が,古代メソポタミアバビロニア)では,一つの星座だった可能性があるという話題.

(専門家の方々の間では「可能性」ではなく,どちらかに決着がついているはずですが,そこまでは調べきれませんでした)

 

the Theoi projectのサイトStar Myths | Theoi Greek Mythologyには,このふたつの星座のラテン語名,ギリシャ語名,アッカド語名,シュメール語名が次のように記されています.

 

おおぐま座

URSA MAJOR

Latinラテン語 : Ursa Major (the Great Bear大熊)

Greekギリシャ語 : Arktos Megale (the Great Bear大熊) or Amaza (the Wagonワゴン) or Helikê

Akkadianアッカド語 : Eriqqu (the Wagonワゴン)

Sumerianシュメール語 : MAR.GÍD.DA (the Wagonワゴン)

 

うしかい座

BOOTES (Boötes)

Latinラテン語 : Bootes (Boötes)

Greekギリシャ語 : Boôtes (the Wagon-Driver馭者) or Arktophylax (the Bear-Watcher熊を見守る人)

Akkadianアッカド語: Niru (the Yoke軛くびき / または,軛で連結された1対の牛[荷車用動物])

Sumerianシュメール語 : SHUDUN (the Yoke軛くびき / または,軛で連結された1対の牛[荷車用動物])

 

まず,

おおぐま座うしかい座には,アッカド語・シュメール語の星座名があり,古代メソポタミアから星座として認められていたことがわかります.

 

また,

その名前の意味から:

おおぐま座うしかい座は古代メソポタミアバビロニア)では,関係の深い星座,もしくは,一つの星座と考えられていた.”

と想像できます.

 

改めて整理してみましょう.

おおぐま座に相当するアッカド語,シュメール語の名称は,英語でWagon.

現代ならワゴンといえば,自動車の名称になりますが,ランダムハウス英語辞典によれば,もともとは,広く四輪車を指す言葉.

Wagon 【1】(各種の)四輪車;⦅米⦆(通例,2頭以上の馬の引く)荷馬車. ▶馬やエンジンを動力とした四輪車で,おもちゃから商業用の輸送[配達]車までの総称: a horse and wagon 馬で引く荷馬車.」ランダムハウス英語辞典 小学館

 

うしかい座に相当する名称の意味は,英語でthe Yoke.

日本語に翻訳すると軛(くびき).

ランダムハウス英語辞典Yokeには「1対の牛などを首の所で連結する弓なりの器具」と説明がつけられ,挿絵も添えられています.

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この古代メソポタミアの名称から,おおぐま座うしかい座は,非常に近い関係にあったことが分かります.

「牛に引かれた四輪の荷車を形成していた」と考えるのが妥当.

 

実際に,別のサイトには,次のような一文が!

 

(拙訳)

バビロニアでは星座ワゴン(現在のおおぐま座を基本として他の星も含んでいる)は三つのパート; Yoke(軛(くびき)), Pole(轅(ながえ)), Side-pieces(側面部),に分けられる.そのうちのYokeは,おおよそ,現代のうしかい座の星々に相当している.

http://members.westnet.com.au/gary-david-thompson/page9t.html

In Babylonia the constellation of the Wagon (basically our Ursa Major (Big Bear) but also other stars) was divided into 3 parts, the Yoke, the Pole, the Side-pieces. The Babylonian Yoke (of the Wagon) was a constellation approximately equivalent to the stars of our modern Boötes.

おおぐま座とうしかい座1 カリストーは,成長した息子アルカスにあわや槍で殺されそうに.しかし,ゼウスが助け,息子のアルカス共々星座とします.「カリストーは後におおぐま座として,息子アルカスはうしかい座として」.狩人であり後のアルカディア王アルカスがうしかい座? ⇒「ゼウスは,2人を天に召し上げた.“Arctophylax (the Bear-Watcher)”と“Ursa (the Bear)”として」(Hyginus)

おおぐま座となったカリストー.

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星座図鑑・おおぐま座

 

息子のアルカスはうしかい座に?

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星座図鑑・うしかい座

 

何か奇妙な気がします.

 

オウィディウス/メタモルフォセス(日本語版 「転身物語」人文書院):

 

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ユピテルに犯されたカリスト」では,

ユノ(ヘーラー)の怒りをかって熊に変身させられたカリストカリストー)が描かれます.

 

あらすじ:

愛の焔を一方的に燃え上がらせたユピテルは,ディアナ(アルテミス)のすがたに身をやつしてカリストカリストー)に近づき,望みを遂げます.

身ごもったカリストは,ディアナの従者の仲間から追放され,幼いアルカスを生みます.

しかし,このことがユノ(ヘーラー)の感情を更に害し,前髪をつかまれ地上に投げつけられ,熊に変身させられてしまいます.

そして,猟師ばかりか,同じ熊や狼をおそれてさまよい歩きます.

 

続く章「星になったアルカス」で,ゼウスに助けられたカリストは息子と共に星座に.

 

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Arcas in Greek Mythology - Greek Legends and Myths

 

あらすじ:

カリストカリストー)は,成長した息子アルカスと出会い,あわや槍で殺されそうになります.しかし,ゼウスが助け,星座とします.この時,息子のアルカスも「相並ぶ星座」として,召し上げられます.

 

しかし

オウィディウス/メタモルフォセスには,星座名は記されていません.

 

カリストーは,当然,おおぐま座です.

息子のアルカスはこぐま座--- と思うのが自然な考え方.

 

英語版ウィキペディアに,この“自然な考え方”にそった記事があります.

 

(拙訳)

カリストーとアルカスは,現在,おおぐま座こぐま座,すなわち大小の熊に当てはめられている.

They(カリストとアルカス) are now referred to as Ursa Major(おおぐま座) and Ursa Minor(こぐま座), the big and little bears.  https://en.wikipedia.org/wiki/Arcas

 

しかし,これは明らかな間違い!

 

the Theoi project のおおぐま座の解説(Star Myths | Theoi Greek Mythology下記)にあるように,

偽ヒュギーヌスは,

アルカスは「うしかい座」になったと明記し,この説が一般的に認められています.

 

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Star Myths | Theoi Greek Mythology

 

おおぐま座

彼女(カリストー)は後におおぐま座として,星々の間に置かれ,同時に彼女の息子アルカスはうしかい座となった.

URSA MAJOR

She was later placed amongst the stars as the constellation Ursa Major(おおぐま座), along with her son Arcas, who became Bootes(うしかい座). (Hyginus 2.1 & 2.4 from Hesiod & Amphis & others.)

Star Myths | Theoi Greek Mythology

 

ただ,奇妙に思えるのは---

 

アルカスは,

若い頃(熊となった母カリストーと出会った頃)は,牛飼いではなく狩人.

そして,

後にはアルカディア

オウィディウス/メタモルフォセスでは,熊となった母と同時に天に召されるような記述になっていますが,実は,アルカスはアルカディア王になり,アルカディア人の祖とされている人物で,死後,星座になったとされています.

 

牛飼いに擬せられるはずはない!?

 

この矛盾したストーリーは,

うしかい座という呼称は,この星座の唯一の名前ではなかった」

ことで解消されます.

 

the Theoi project のサイトでは,うしかい座Bootes(正確にはBoötes)について,次のような記述があります.

 

BOOTES

Star Myths | Theoi Greek Mythology

Latin : Bootes

Greek : Boôtes (the Wagon-Driver) or Arktophylax (the Bear-Watcher)

Akkadian : Niru (the Yoke)

Sumerian : SHUDUN (the Yoke)

 

ギリシャ語名として,“BoôtesまたはArktophylax”とある!

 

続けて,この星座のギリシャ神話にアルカスの名が.

次のような説明と共に.

 

ARCAS An early king of Arkadia. When he was about to kill his mother Callisto who had been transformed into a bear,

Zeus raised the pair to heavens as the constellations Arctophylax (the Bear-Watcher) andUrsa (the Bear). (Hyginus 2.4.)

Star Myths | Theoi Greek Mythology

 

この中で注目される一節は後半.

(拙訳)

「ゼウスは,2人を天に召し上げた.“Arctophylax (the Bear-Watcher)”と“Ursa (the Bear)”として」

 

アルカスの星座は,現在の星座名に相当するギリシャ語Boôtesではなく,もう一つのギリシャ語星座名Arctophylaxということですね.

意味は「熊を見守る人 」.

 

アルカスは母親をずっと見守る息子の位置に配されたことになります.

これで,私のささやかな疑問,「牛飼いに擬せられるはずはない!?」

は解消されました.

 

なお,

うしかい座という日本語名にも引っかかっています.

すっきりした説明とはほど遠いものとなりそうですが,この疑問を,明日取り上げてみようかと思っています.

どうでもよいことを,またまたフレームアップしているようでな話で恐縮ですが.

おおぐま座4  星になったアルカス(オウィディウス 転身物語):カリストの子アルカスは,母のことはなにも知らずに,十五の歳をむかえた.森を丈夫な網でとりかこんでいたとき,はからずも母と対面することになってしまった.牝熊がさらに近づいてくると,あわや必殺の槍をその胸もとに突きさそうとした.しかし,ユピテルは,これを見て----ふたりを天空に舞いあがらせ,相並ぶふたつの星座にした.おおぐま座と相並ぶ星座とはうしかい座.アルカスがうしかい座?なぜ?

おおぐま座(大熊座,Ursa Major)4

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おおぐま座ギリシャ神話.

昨日,一昨日と,

オウィディウス 転身物語 田中秀央・前田敬作 訳 人文書院オウィディウスOvid メタモルフォセスMetamorphoses)より

ユピテル(ゼウス)に犯されたカリスト

を抜粋して転載しました.

 

愛の焔を一方的に燃え上がらせたユピテルは,ディアナ(アルテミス)のすがたに身をやつしてカリストカリストー)に近づき,望みを遂げます.

身ごもったカリストは,ディアナの従者の仲間から追放され,幼いアルカスを生みます.

しかし,このことがユノ(ヘーラー)の感情を更に害し,前髪をつかまれ地上に投げつけられ,熊に変身させられてしまいます.

そして,猟師ばかりか,同じ熊や狼をおそれてさまよい歩きます.

 

ユピテル(ゼウス)に犯されたカリスト」はここで終わり,まだ牝熊カリストは星座とはされていません.

この章に続く「星になったアルカス」で,息子と遭遇したカリストはゼウスによって星々の間に置かれることになります.

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Star Myths | Theoi Greek Mythology

 

オウィディウス 転身物語 田中秀央・前田敬作 訳 人文書院 

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星座図鑑・おおぐま座

 

星になったアルカス

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Arcas in Greek Mythology - Greek Legends and Myths

 

 さて,リュカオンの娘カリストの子アルカスは,母のことはなにも知らずに,十五の歳をむかえた.ある日のこと,野獣たちの跡をつけ,かれらの好む谷間を見つけだし,そのエリュマントゥスアルカディア地方の山)の森を丈夫な網でとりかこんでいたとき,はからずも母と対面することになってしまった.

母の方は,すぐそれと知ってか,アルカスを見るなり立ちどまったが,かれは,たちまち身をひるがえして,じっと自分の上にそそがれた眼を,母とは知らずにおそれた.そして,牝熊がさらに近づいてくると,あわや必殺の槍をその胸もとに突きさそうとした.

しかし,全能の神ユピテルは,これを見て,彼の槍をとめ,かれら母子とその罪を同時に救ってやった.かれは,一陣の突風によってふたりを天空に舞いあがらせ,これを天にとどめ,相並ぶふたつの星座にした.

----以下略

 

「かれらふたりの罪を同時に救ってやる」とは,何と勝手な言い分!

全能神とは,一般的にもこういう者なのでしょうが---

 

「天にとどめ,相並ぶふたつの星座にした」

ここでカリストーがおおぐま座となった経緯が明らかに.

一方のアルカス.「おおぐま座と相並ぶ星座」とされますが----

この星座はこぐま座ではなく,うしかい座(Bootes).

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星座図鑑・うしかい座

なぜ,アルカスが牛飼い?

 

この疑問に答えるのは,

古代ギリシャでは,うしかい座Bootesにもう一つ別の名前,Arktophylax (the Bear-Watcher),があったことを説明する必要がありそうです.

 

明日,うしかい座を改めてとりあげ,その由来についても説明できたらと思います.

 

おおぐま座3 転身物語(:ギリシア・ローマ神話をこれほど網羅した作品はほかに類がなく,神話伝説の宝庫として中世以来多くの人々に愛読され,後世ヨーロッパの文芸や美術に与えた影響は大きい)より. 「わが良人をまどわしたおまえの美しさをほろぼしてやるぞ!」こういうなり,女神(ユノ/ヘーラー)は,乙女の前髪をひっつかみ,まっさかさまに地上に投げつけた.その腕は,たちまち黒いもじゃもじゃの毛がはえはじめ---  

おおぐま座(大熊座,Ursa Major)3

 

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星座図鑑・おおぐま座

 

おおぐま座ギリシャ神話.

四つあるそうですが,

Star Myths | Theoi Greek Mythology

おおぐま座  ギリシャ神話は四つあり,有名なカリストーの物語を含め二つが熊への変身の物語. 残りの二つは熊とは無関係で,一つはWagon.アポロドーロス ギリシャ神話(高津春繁訳)彼女(カリストー)はアルテミスの猟の伴侶であり,女神と同じ衣を身に纏(まと)い,処女であることを女神に誓った.---- - yachikusakusaki's blog

最もよく知られているカリストーの物語.

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CALLISTO (Kallisto) - Arcadian Princess of Greek Mythology


昨日から,ローマ時代の作家オウィディウスの転身物語(変身物語/変身譚 Metamorphoses)の内容を転載しています

おおぐま座2 ユピテル(ゼウス)に犯されたカリスト1 ひとりの美しいノナクリアの乙女を見そめて,かれ(ユピテル/ゼウス)の胸の底にたちまちはげしい愛の焔がもえあがった.「この情事は,きっと女房にはわかるまい」 - yachikusakusaki's blog

今日はその続きです.がその前に,転身物語について,簡単な解説.

 

ギリシャ神話の全体像を整理している原典としては,ギリシャ語で描かれた神統記(しんとうきTheogonia, ヘーシオドス)やビブリオテーケー(偽アポロドーロス,日本語版訳では「ギリシャ神話」)が,日本ではよく知られています.

ギリシャ神話を全く知らなかった私も,まずこの二冊を買いそろえて読み始めたのですが---

一方のヨーロッパ.ラテン語で書かれた,転身物語(変身物語/転身譜 Metamorphoses,オウィディウス)が,ギリシャローマ神話として最もよく読まれているとのこと.

沢山の物語を収集している上に,物語として捉えた場合の面白さは前二者を圧倒しているように思います.

神統記(岩波文庫)は,格調が高く,内容も調っていて,何よりも短いため一気に読めますが,面白さの点では---? アポロドーロスのギリシャ神話(岩波文庫)は,記録を勉強する感覚で読んでいかないと続かない.(実際,まだ通読できていません)

それに対し,転身物語(変身物語/変身譚 Metamorphoses)では,物語の一つ一つを楽しく読むことができます.

 

日本大百科全書(ニッポニカ)の解説では 

転身譜(てんしんふ)とは - コトバンク

 

転身譜

てんしんふ

Metamorphoses

ローマの詩人オウィディウスの代表作.15巻の物語詩.

伝統的叙事詩の形式を用い,転身(または変形)のモチーフを中心に,大小250に及ぶさまざまな神話伝説をつなぎ合わせながら,宇宙の開闢(かいびゃく)から年代順に,ギリシア,オリエント,ローマにまで及び,カエサルの昇天と星への転身の話で終わる.

神話の単なる系譜的羅列ではなく,大筋の物語のなかにさまざまなエピソードを巧みに織り混ぜながら,語り口は変化に富みよどみなく,達者な修辞と豊かな想像力を駆使して,物語作者としての詩人の力量がいかんなく発揮されている.

ギリシアローマ神話をこれほど網羅した作品はほかに類がなく,神話伝説の宝庫として中世以来多くの人々に愛読され,後世ヨーロッパの文芸や美術に与えた影響は大きい.[松本克己]

 

 

オウィディウス 転身物語 田中秀央・前田敬作 訳 人文書院 より

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ユピテルに犯されたカリスト(抜粋) 続き

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 (ユピテル/ゼウス)は,さっそくディアナ(アルテミス)のすがたに身をやつすと,「私の従者たちのなかでいちばん眼をかけてやっている乙女カリストーを指す)よ,そなたはどこの丘で猟をしていたの」乙女は,すぐさま芝生から身をおこして,「こんにちは,女神さま,ユピテルよりも尊い女神さま.いいえ,たとえユピテルさまがこの言葉をお聞きになってもかまいませぬ」—

ユピテルは,これを聞いて笑い,自分が自分よりも好かれているのをよろこび,処女神ではとてもあたえられないような猛烈な接吻をあたえた.乙女は,どこの森で猟をしていたかを話そうとしたが,相手はその言葉をさえぎり,両腕にしっかり乙女を抱きしめて,けしからぬやり方で本性をあらわした.この女はあらゆる力をふりしぼって抵抗した.

おお,サトゥルヌス(クロノス)の娘ユピテル/ゼウスの妻ユノ/ヘーラーのこと)よ.この有様をごらんになればよかったのに!そうすれば,あなたは,この乙女にたいしてもっと寛大になられたことでしょう.

乙女は,もがいた.しかし,乙女の身で,いや,神々のひとりであっても,どうしてユピテルに勝てようか.かれは,望みをとげると,揚々として天にのぼっていった.乙女は,自分のあやまちを知っている木陰を森をにくんだ.彼女が森を去ろうとしたとき,もうすこしで矢のつまっている箙(えびら)と枝にかけておいた弓を忘れるところであった.

そのとき,従者(とも)の妖精たちを大勢ひきつれたディアナが射止めた獲物に意気揚々として,マエナルスの高い峯をこえてこちらへやってきたが,彼女をみとめると.

声をかけた.呼び止められた乙女は,いきなり身を翻して逃げ出した.

----中略

 

さて,弦月がそれから九度目の円い姿を見せてあらわれたころ,ディアナは猟に出かけ,兄(太陽神ポエブス/ポイボス:アポロ/アポローンのこと)の投げる暑熱のために疲れはて,すずしい森かげに立ち寄った.そこは,せせらぐ小川が湧きでて,なめらかな砂を転がしていた.

----中略

 

「さあ,みんなは着物をぬいで,水浴びをしましょう」すると,パラシアの乙女カリストのこと,パラシアはアルカディアの西南部の町.ここではアルカディアと同義)は,まっ赤になった.みんなは着物を脱いだが,かの女だけは,なんとか口実を探そうとした.それを見ると,みなが寄ってたかって着物をぬがせてしまった.

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Callisto (mythology) - Wikipedia

着物をぬぐと,一糸もまとわぬそのからだは,過失の隠しようがなくなった.あわてて腹のふくらみを両手でかくそうとした乙女にむかって,キュントュスの女神(ディアナのこと,キュントゥスはディアナの生誕地アロス島の山の名)

「ここから去れ!この神聖な泉をけがすことはならぬ!」とさけんで,従者たちの仲間から追放してしまった.

 

 偉大な雷神の妃ユノは,すでに早くからこの情事を知っていたが,そのおそろしい復讐を適当な時期までのばしていたのだった.しかし,いまやこれ以上のばしておく理由はない.それに,これがユノの感情を害したのだが,その恋敵の女からすでに幼いアルカスが生まれていた.

----中略

 

「こうなった以上は,罪をうけずにすむものではない.恥知らずの女よ,おまえをいい気にうぬぼれさせ,わが良人をまどわしたおまえの美しさをほろぼしてやるぞ!」

 こういうなり,女神は,乙女の前髪をひっつかみ,まっさかさまに地上に投げつけた.

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Callisto (mythology) - Wikipedia

乙女は哀願するように女神にむかって腕をさしのべたが,その腕は,たちまち黒いもじゃもじゃの毛がはえはじめ,両手はまがり,まがった爪がはえて足の役目をするようになった.

かつてユピテルが賛美した顔は,口が大きくさけて,みるかげもない醜さになった.

そして哀願や祈りによって二度と女神にあわれみの気持をおこさせたりしないように,ものを言う能力を奪われ,調子外れな喉からはあらあらしい,おそろしげな唸り声が出て来るだけであった.

しかし,こうして一匹の牝熊になってしまっても,もとのままの気持ちは残っていると見えて,たえずため息めいた唸り声を発することによって内心の苦痛をはっきりとあらわし,前肢になってしまった両手をなおも天と星々にむかってあげるのだった.口にこそ出さないが,ユピテルの情(つれ)なさをなじっているのである.

-----後略

おおぐま座2 アルテミスの猟の伴侶としてゼウスに見初められ,後に熊に変身させられたカリストーは,アルカディア王リュカーオーンの娘とされています.リュカーオーンはゼウスを騙す/もしくは試そうとし,その傲慢さのためにオオカミに変身させられます.オウィディウス転身物語よりユピテル(ゼウス)に犯されたカリスト1 ひとりの美しいノナクリアの乙女を見そめて,かれ(ユピテル/ゼウス)の胸の底にたちまちはげしい愛の焔がもえあがった.「この情事は,きっと女房にはわかるまい」 

おおぐま座(大熊座、Ursa Major)2

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星座図鑑・おおぐま座

 

おおぐま座に関わるギリシャ神話で,最もよく知られているのは,熊に変えられたカリストーの物語.

多くのギリシャ・ローマの詩人・作家・歴史家が書き記す中から,前回はアポロドーロス版を転載しました.

おおぐま座1  ギリシャ神話は四つあり,有名なカリストーの物語を含め二つが熊への変身の物語.yachikusakusaki's blog

 

今日は,ローマ時代の作家オウィディウスの転身物語(変身物語)の一部を取り上げようとと思いますが,その前に,カリストーの生い立ちについて少しだけ.

 

アルテミスの猟の伴侶としてゼウスに見初められ,後に熊に変身させられたカリストーは,アルカディア王リュカーオーンの娘とされています.

リュカーオーンの父ペラスゴスは,ガイアの子,あるいはゼウスとニオベの子とされ,いずれにしても神の血をひく人物です.

しかしこのような血筋であるにもかかわらず,リュカーオーンはゼウスを騙す/もしくは試そうとし,その傲慢さのためにオオカミに変身させられます. LYCAON (Lykaon) - Arcadian King of Greek Mythology

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Lycaon of Arcadia - Wikipedia

 

また,オウィディウスによれば,ゼウスが引き起こした大洪水(“デウカリオーンの洪水” デウカリオーン - Wikipedia DEUCALION (Deukalion) - Hero of the Great Deluge of Greek Mythologyは,このリュカーオーンの傲慢さを目の当たりにして,この時代の人間に嫌気がさしたためとされています.

リュカーオーンには50人の息子がいましたが,皆,父と同じく傲慢不遜.ゼウスによって殺されたり,狼に変えられた!LYCAON (Lykaon) - Arcadian King of Greek Mythology

カリストーは父や兄弟とは「似ても似つかぬ清純な娘」リュカーオーン - Wikipedia )ということになりますね.

 

以下,

Publius Ovidius Naso(Ovid, プーブリウス・オウィディウス・ナーソー) Metamorphoses(メタモルフォセス 転身物語/変身物語)の日本語訳

オウィディウス 転身物語 田中秀央・前田敬作 訳 人文書院 より

 

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なお,オウィディウスはローマ時代の作家であるため,神々の名称はローマ神話の名前が記されている.

ユピテル:ゼウス,ディアナ:アルテミス,ユノ:ヘーラー

 

ユピテル(ゼウス)に犯されたカリスト1. 一部抜粋

 

 さて,全能のユピテルは,巨大な天国の城内をかけめぐり,猛火のためにいたんだり,こわれたりした建物はないかとしらべてまわった.すべてがっちりとし,すこしもいたんでいないのをたしかめると,こんどは大地と人間たちの仕事をしらべてみた.なかでもかれがとくに気をくばったのは,アルカディアであった.かれは,まだかすかに流れていたこの土地の泉や河を修理し,大地には草を,樹々には葉をあたえ,いたんだ森をふたたび青々としげらせた.

こうしてなんどもこの土地に足をはこんでいるうちに,ある日のこと,ひとりの美しいノナクリアの乙女(訳註 ノナクリアはアルカディアのこと.この乙女の名前は出てこないが,アルカディア王リュカオンの娘とされるカリストである)を見そめて,かれの胸の底にたちまちはげしい愛の焔(ほのお)がもえあがった.

羊の毛をつむいだり,髪の手入れをしておしゃれしたりすることは,この乙女のしごとではなかった.簡単な留め金で衣服をとめ,垂れさがった髪の毛は,一本の白い紐で無造作にたばねておくだけである.こうして身拵え(みごしらえ)ができると,ときには軽い投槍をもって,ときには弓矢をもってディアナ(アルテミス)のお伴をするのが,彼女の仕事であった.マエナルシの山をかけめぐる妖精たちのなかで,彼女ほど女神トリウィア(ディアナ/アルテミスの形容語)に愛されている者はなかった.しかし,どんな寵愛も,長続きするものではない.

 

 高くのぼった太陽がちょうど天の中央をすぎたころ,かの女は,太古以来まだ斧ひとつ入ったことのない森のなかへ入っていった.そして,肩から箙(えびら)をおろし,しなやかな弓から弦(つる)をはずし,草におおわれた地面に身をのべて,あざやかな彩色をほどこした箙(えびら)を枕にした.

ユピテルは,かの女がぐったりと疲れはてて警戒の色もなく寝そべっているのを見るやいなや,「この情事は,きっと女房にはわかるまい.また,たとえわかったとしても,そのための小言なら,よろこんで我慢しよう」と考えた.

 

以下,続く

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Callisto (mythology) - Wikipedia

 

おおぐま座 日本からは,一年中見ることが出来る周極星ですが,春の星座とするのが一般的.星座名はギリシャ神話に由来し,古代メソポタミアではWagonとされていました.ギリシャ神話は四つあり,有名なカリストーの物語を含め二つが熊への変身の物語. 残りの二つは熊とは無関係で,一つはWagon.アポロドーロス ギリシャ神話(高津春繁訳)彼女(カリストー)はアルテミスの猟の伴侶であり,女神と同じ衣を身に纏(まと)い,処女であることを女神に誓った.---- 

おおぐま座(大熊座、Ursa Major)

 この星座の名前は,ほとんどの方がご存じでしょう.

 星座の一部,「北斗七星」は,更によく知られているに違いありません.

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星座図鑑・おおぐま座

 

日本からは,一年中見ることが出来る(周極星と呼ばれる)ため,星座の季節を特定する必要はないように思いますが,春の星座とするのが一般的なようです.

秋には最も見づらい位置にある!

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春の星座 夏の星座 秋の星座 冬の星座

 

おおぐま座は,ギリシャ神話に由来する名前と言ってよいでしょう.

中でも熊に変えられたカリストーの物語がよく知られています(後述)

 

この星座を熊に擬する神話は,ギリシャ以外にもあり,中には旧石器時代に既に語られていたという説もあるようですUrsa Major - Wikipedia ).

しかし,ギリシャ神話にある星座名の多くが生まれた古代メソポタミアでは,熊ではなくWagon(四輪車)と呼ばれていたとのこと.( Star Myths | Theoi Greek Mythology )

アッカド語 : Eriqqu (the Wagon)

シュメール語 : MAR.GÍD.DA (the Wagon)

 

この星座にまつわるギリシャ神話は四つあり,上記カリストーの物語を含め二つが熊への変身の物語.

残りの二つは熊とは無関係で,一つはWagon( Star Myths | Theoi Greek Mythology ).古代メソポタミアの星座名を受け継いだ物語がギリシャ神話にも.

 

熊に変えられたカリストーは,古代ギリシャ・ローマの多くの詩人・作家・歴史家が取り上げています.

ヘーシオドス,アイスキュロス,偽アポロドーロス,偽エラトステネス,アンフェイス,オウィディウス---

 

今日は偽アポロドーロスの記述を転載します.

 

アポロドーロス ギリシャ神話 高津春繁訳 岩波文庫

 

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https://www.amazon.co.jp/

彼女(カリストー)はアルテミスの猟の伴侶であり,女神と同じ衣を身に纏(まと)い,処女であることを女神に誓った.

しかしゼウスは彼女に恋し,一説によればアルテミスに,一説によればアポローンに,姿を似せ,嫌がる彼女と床をともにした.ヘーラーに気づかれないように女を熊の姿に変えた.

しかしヘーラーは彼女を猛獣として射殺すようにアルテミスを説き伏せた.

一説にはアルテミスが,彼女が処女を護らなかったので射殪(たお)したとも言う.

カリストーが死んだ時に,ゼウスは赤児をひっさらい,アルカスと名づけ,アルカディアーにおいて育てるべくマイアに与えた.そしてカリストーをば星に変え「熊(アルクトス)」と呼んだ.