「師匠に似てるねとか,師匠そっくりだとか,お前,深見さんの芸,ほんとに良く盗んでるなって言うようなこと,言われたときに,『あっ,これは,俺,結構いけてるな』と思ったね./ 「1972年,北野武はなぜ浅草に来たのか」「エレベーターでの深見師匠とたけしさんの出会い」
「たけし誕生 オイラと師匠と浅草」NHKBS(1)
http://yachikusakusaki.hatenablog.com/entry/2017/09/22/035034
NHKドキュメンタリー - たけし誕生~オイラの師匠と浅草~
https://www.nhk.or.jp/docudocu/nod/
「たけし誕生 オイラと師匠と浅草」NHKBS(2)
座頭市(監督 北野武) 映像
「どっからでもかかってこい」(全員の木刀が頭に)
たけし「殺陣のコントがあるけど,立ち回りのコント,うまいもんね.あれは,やっぱり深見師匠がやると,うまいよね.殺陣師で,槍回したりして,色々やってみせるんだけれど,それをボケるやつがいて,ボケも難しいし,全部一人で見せてくれるんだけど,それ見て笑ってたもんね.なんていうんだろね.こうやって,くるっと回って,イテッとか,やるんだけど」
座頭市(監督 北野武) 映像
侍(自分で頭を打って)「イテテテッ」
たけし「うまいんだよね.俺はだから『座頭市』なんかやったとき,殺陣師使わなかったもん」
座頭市(監督 北野武) 映像
たけしの座頭市の殺陣映像.
たけし「コントと同じように.笑わせなきゃいいんだからっていうだけで.自分で『座頭市』作っちゃったね.
でもコントになると,舞台だからやり直しがきかないんで」
字幕 深見と舞台に立つ緊張感
井上雅義(作家・フランス座で北野武と修行)
「その場限りでしょ.だから一瞬じゃない.一発で決めなきゃいけないんだから,かなり緊張してますよね.そででゲーゲーいって,タップ踏みながらばーっと出てくるんだけども.その緊張感は袖にいた方が分かる.ゲーゲーいってるもんね.出る前にね.一切口利かないしね.袖なんかいると.もう,二人とも」
たけし「結局,深見の師匠と出ていくのがもう辛くてね.うまいから.それで,こっちのミスがよく分かるから,いらつくし.いらついてんのが分かるし.それをカバーできないと,こっちがまた落ち込むじゃない.やだな〜と思いながら出ていくから,自然と客には受けないし,師匠はいらついてくるし.でもやっぱり場慣れしてるから.客を笑わせるのにね.ふと,終わって楽屋に帰るのが嫌でね.申し訳ねえって感じがあるから.
だから,毎回,辛いよね.疲れちゃうっていうか.
でも,後で考えると,それが修行みたいな感じだったね」
井上「照明室は,こっちから上がるの.パーッと上がってくの.女優さん,ここ歩いて.もうこっからね.ウワ〜ッて,匂いすごいのよ.化粧の.オーデコロンと香水をブワ〜ッとして.もう,プンプンしてる.においが.
あ〜〜,変わってないっすね.ここ進行席ね.ここに机があって」
(取材者)「ここ,たけしさんがいたんですか?」
井上「そう,ここに灰皿があって,ここたまり場なってんの.ソファーがあって.踊り子が,次のやつが準備して,待ってて.
(字幕 北野武はストリップショーの進行係も務めた)
終わると交代して入って来るみたいな.
たけしさんが,踊り子の脱いだ衣装を畳むんですよ.ここで.着物とか全部.帯まで畳んで,こうやって持ってくわけ.楽屋にね.うまいですよ〜.あの人の着物の帯のたたみ方.きれいに畳んで.襦袢までね.
最後,パンツだけになるでしょ.パンツも脱いじゃうじゃないですか.パンツも運ぶのよね.それを運ぶのがやだから,棒を探してきて,棒に引っかけて,それで持ってくの.こうやって.怒られてたね〜.『テメエ,コノヤロウ,人の衣装を』って」
静止画像: 1973年ころ フランス座 踊る踊り子
「1.2.3.4.ぐらいまで」「五列目ぐらいまで,このくらいの出べそがあって.円盆があって」
「これがさ,デビュー.初めてここへ出たときに,あの上からね.下りてきた」「そう」
(取材者)「お客さんとたまにケンカすることもある?」
潮みちる(元踊り子)「するよ.だって,酔っ払いとか,野次るのがいるんだから」
岬洋子(元踊り子)「早く脱げとか言う人いるじゃない.そうすると,『だったら,他,行きやがれ』とかね.『踊ってるの!』って」
(取材者)「こっから出てったりしてたんですね.舞台に」
岬「ここか」潮「そうそう,ここでね.ここで待ってて,前の人が終わんの」
岬「その椅子に座って待ってて」
潮「それで早めに来て,ここで,コメディアンの人と,うだうだ,うだうだ---」岬「そう,お兄さんたちと」潮「しゃべったり」岬「ああだこうだ言って」潮「そうだね」
岬「面白いなとは思った.ふだん,普通に話しても」
潮「いやみも--.何か嫌らしさがなくて」
たけし「おかしいんだよ.この人たちが.何考えてんだか.ストリップ劇場の衣装でプール来ちゃった.ははは.『それ,ねえさん.真珠の飾りがついてるよ.パンツに』っつったら,『あら,いけない』っつってさ.『舞台衣装もって来ちゃった』って.おかしかったなこれ」
潮「もてる感じではない」岬「ふふっ」
潮「踊り子さんとコメディアンの人ってつき合う人たちが多いじゃないですか.でも,そういう対象ではなく,なんかこう,話してて面白くて,飲みに行って面白くてっていう」
たけし「酒飲みに行ったって,大抵ねえさん三人相手に、そのマンションに行って,お酒おごってもらって帰ってくろとか.それで,ワイワイガヤガヤばっかしやってたけどね」
フランス座楽屋
井上「わ〜,狭いんだよね.ここね.狭いんですよ.しつれいしま〜す.いないか.
ここ,ほんとは,座敷だったんですよ.これ,あったかな?---これなかったな.えっとね.役者さんの部屋.男部屋っつったらいいのかな.
だから,たけしさんもそれから他の役者もいて,師匠もいて.だから,四人か五人,いつもここに.だから,化粧するって言えば,これ,化粧前でやって,それでコント出ていくわけじゃないですか.師匠も一緒にして.ネタ合わせも全部ここ」
たけし「いや,楽屋にいてもね.深見の師匠はね.(テレビ)見てんのはね.深海魚とか.ライオンの何とかとかね.アニマルワールドとかばっかり見て『不思議だ〜!』とかね.すごい感動するんだよね.『こんな花があんのか!』とかね.なんか,頭が冒険するんだよね.お笑いなんか見ないんだよ.全然.
それで何でも知ってるんだよね.常にテレビつけてるから.キックボクシングが大好きだったり.
だからもう,貪欲だよね.知識はね.
それが舞台出るから面白いんだよね.『沢村忠』とか言うからね.『真空飛び膝蹴り』とかね.わけ分かんないこといいだすんだけど,みんな,笑うんだよね」
浅草を歩くたけし.周りの皆さんの歓声.挨拶しながら,行きついたのは,お好み焼き・もんじゃ焼.鉄板焼きの「つくし」.
深見千三郎なじみの店.
女将神田菊子「いらっしゃい.久しぶりです」
たけし「そこの片満員だけど,ここだけ誰もいないじゃない」女将「あははっ.止めたんですよ」
たけし「止めたの?ありがとう」女将「久しぶりでございます」
たけし「どうもどうも.いつもお世話になって---.」女将「暑いところに,暑いとこへ入ってきて,ごめんなさい.今日は久しぶりに来てるから,ちょっと,飲みますか?」
たけし「いや,俺,飲まない」女将「飲まない」たけし「減量中だから」
(取材者)「深見師匠といらっしゃることが多かったんですか?」
たけし「いや,あんまり---.師匠,おっかないしね.」女将「おっかなかった」
たけし「おっかねえし.あの人は恥ずかしがり屋だからね」女将「そうですよね」
たけし「照れ屋だよね」女将「照れ屋ですよね」
たけし「だから,俺,『たけ』っていわれてて,『たけ』って---」
女将「きれいな『たけ』じゃない.『たげ』.ちょっとなまってて」
たけし「そうそう.『たげ』って」女将「こんちきしょう」
たけし「『このバーカ』と.これだよね」女将「そう」
たけし「オイラん時はね.話の間に『バカヤロ〜』が入るからね.『なにやってんだ,バカヤロー』『どうしたんだ.バカヤロー』だから.『バカヤロー,バカヤロー』だからね.でもね,『心配してたんだ,バカヤロー』って.何だか分かんないんだよ.『何か食え.バカヤロー』とかね」女将「そうそうそう」
女将「『お腹すいてる?』っていうと,『はい』って言うから,『じゃあ,作る』っつって勝手に作って.
たけしさんには全部あげて,師匠には,やっぱ,お金払う人だから,ちょっとはかっこつけなきゃいけないから,この小皿に一本だけ.
そしたら,怒るの.『なんだ,この〜!』っつって.『金払うの俺だ』とか言って.
『たげにはこんなにいっぱいあげた』っつって怒るわけ.
そのからかうのが面白くって.必ず」
居酒屋の前
井上「すみませ〜ん.お早うございま〜す」
女将佐久間愛子「あ〜ら」
「いいですか?」「どうぞ」「ほんと.ご無沙汰してます」「あ〜いらっしゃい.どうも」「待ってましたよ.あつかったでしょ」
北野武と井上がよく来た居酒屋
井上「暑い.この暑いのがね.夏は暑くないと」「どうぞどうぞ」
井上「たけしさんがね.あれなの.ひいきの人に.ごひいきさんができて.コントで受けて.で,ごひいきさんに連れてきてもらったんだって.ここ」「ふ〜ん」
井上「あのころはたまんなかったよ.毎日1500円ずつもらって.二人でここに飲みに来て,『いくら持ってる?』っつって.それで『これしかねえから』って」
女将「そしたら,先生が,ちゃんとのぞいてくれるんだよね」
井上「そうそう.あれはね.二人でつるんで飲み始めたら,師匠は最初はあのー,僕らが帰るのを待つようになったの.アパートで」
字幕:北野武と井上は,深見と同じアパートだった.
井上「で,帰ってくると,師匠が『風呂行くぞ』って迎えに来るんだよ.僕ら二人を.『お前ら遅い』っつって.逃げらんないよ.帰ってアパートでさ,『風呂行くぞ』って待ってるから.『分かりました』っつって.
風呂行くでしょ.でたけしが,『井上,お前,師匠の背中,ながしてやろうか』って,師匠のとこ行って『流しましょうか』って,『バカヤロー,気持ち悪いから』って.そういう事もさせないし.一切,靴そろえさせることもさせないし.
寿司屋行ったって,『ネタ,ちゃんといいもん頼め』って言われるじゃないですか」
たけし「やっぱり,『おい,何か寿司でも食うか?』って言うと,行くじゃない?そうすると,なんだろ,やっぱり師匠は師匠で,そんなに,腕はあるけども,そんなに金持ってないからね.今から考えりゃ.でも,そういう事を気づかせないっていうのと,あと,店の従業員に気い使うからね.まあ,ちょっとでもチップ置いていきたいタイプだから.
何だろ.やっぱ,気い使ってるよね.
俺は時計買ってもらったような気がするんだよな〜.それも,月賦で.あれ,どっかいっちゃったな.質屋持っていっちゃったのかな.質屋入んなかったのかな」
(取材者)「何でプレゼントしたんですかね」
たけし「やっぱり,弟子になったと思ってるからじゃないかな」
深見千三郎の笑い
潮「だからここでやってたコントのキャラクターっていうの?」
岬「鬼瓦権造」
潮「そう,そっくり!」
フジテレビ映像俺たちひょうきん族
鬼瓦権造「冗談じゃないよ.お前一つ頼むよ」(笑い)
潮「あれをテレビで見たときは,当時知ってる踊り子さんたちは,みんな,『あれさ,師匠が乗り移ったんだね,きっと』って.みんな,その時にね」
岬「びっくりして.あれを見たときには.私も.『いや〜師匠だわ』って思ったら,他のおねえさんたちも,『あれ,師匠乗り移ったんだね』って」
たけし「師匠の得意なのは,お巡りさんとか国会議員とか.ああいうの好きなんだよね.で,必ず悪いことしちゃうんだよね.刑事とかね.刑事とか言ってる割には,スケベな事言うんだけど.威張ってんだよね.その威張り方が笑っちゃうって言うか.怖い人なんだけど,『怖い』というのに,必ずミスが入るっていうかね.
お笑いっていうのは悪魔のように,葬儀とか結婚式とかね,皆が緊張するときにお笑いが入ってくるんだよね.だから,葬式で笑っちゃいけないのに,お笑いが入ってくるから,悪魔なんだよね.
そういう感じで,深見の師匠の芸も割かし権力者をやるんだけど,ミスばっかりする権力者で、すごいスケベで、お金とか,そういうの大好きな人をやるんだよね.
そうすると,師匠からもらったというか,師匠の感じでやると,俺のやる鬼瓦権造になっちゃうんだよね」
フジテレビ映像俺たちひょうきん族
鬼瓦権造「乗ってけ,乗ってけ,乗ってけ,サーフィン」(笑い)「波に--- テンポテンポ!コノヤロウ」
潮「だけど,何かでも,他の人が,ここ出身の人が同じ事やっても,やっぱり違うんじゃないかと思う.それだけ,やっぱり,こう,深いものがあったのかなって.あんなにまで--」
たけし「う〜ん.何か,面白いんだけど,その面白さは,笑われてんじゃなくて,笑わせてるっていうね.『笑われるんじゃないよ』っていう,『笑わせてるんだ』っていうのは,よく言われたね.だから,師匠は舞台から下りて,外で『あ〜深見さんだ』なんつって笑われんの大嫌いだからね.俺も嫌いだけどね.『あ〜たけしさん』なんて言われるんの.
俺が昔『戦場のメリークリスマス』(大島渚監督1983年)って出たときに,まあ,外国でウケたんだけど,日本でそおっと劇場行ったら,俺の出番でみんながワッと笑ったんだよ.出ていった時.『あ,これ,笑わしてんじゃないのに,笑われてるっていうのは,これ,ずごいまずい』って思って,『師匠の考えてることと全然違うとこ行ってるな』と思って.
まず,客を教育しなくちゃと思って.
それからだね,悪い役専門にやったの,わざと.テレビで大久保清から何から全部やったね.それで,『たけしは笑わせるときとヤクザをやるときとか変態をやるときとは全部違う』っていうのを植え付けなきゃいけないっていうんで,相当苦労したけどね.
やっぱり,深見の師匠見て,気がついたというか.う〜ん.結構影響受けてるかなって思うよね」
(続く
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